第39話 突然の巣作り
シシが涙を流した事に、創造神は驚きながらも微笑み、ククはシシの涙を指で拭う。
シシは本当に不安だったのだろう。
だが、ククもこのチャンスを使って、自分がどれだけシシを想っているのか伝えたかったのだ。
そして、シシが桜の木の下で思った時のように、ククも言葉にしなければ伝わらないが故の、このもどかしさや伝える楽しみといった今だけの経験を、大事にしたいと思った。
それは、シシを運命に決めている今のククだからこそ思う事で、シシの貴重な殺気や涙に愛しさを感じていた。
「シシ、許してくれる?この桜、シシに返すから」
「それはククにあげた物だから、そのままククに持っていてほしい。それに、許しを乞うのは俺の方だよ。俺はククを信用してなかった。ごめんね、クク」
「ううん、僕は怒ってない。不安は、好きだから不安になるんだ。それを僕は知ってる」
その後、ククは創造神によってシシ以外のツガイを増やせないようにしてもらい、自己防衛の悪臭も消してもらおうとした。
だが、悪臭についてはシシが反対し、残してもらうようにはしたが、自己防衛が目的であるため、ククにとっての危険がない限り、今まで通り悪臭も出ないようだ。
「あぁ……もう、これで俺だけのツガイだ。ククは俺だけの可愛いツガイ。クク、愛してるよ」
「ふふっ、僕もシシを愛してる!」
「はいはい、そこまで。イチャつくのなら、桜の渓谷へ行きなさい。どうせ行くのだろうし」
創造神は、そう言って東屋を出ると、白狼に記録器を見せながら、死神から見た意見を聞き始めた。
これは二人で行ってこいという事であり、それを察したシシはククを抱えて術を発動した。
そうしてやってきた桜の渓谷に、ククは目を輝かせて尻尾を揺らしながら景色を記録していき、シシは龍の尻尾を出したまま、ククを地面に下ろす事なく歩いていく。
「クク、相談なんだけど、ここの桜を何本か冥界に持って行こうかと思ってるんだよ。ククはどう思う?」
(桜……これがあったら、冥界にも桜が咲くんだ。そしたら、あの中庭にも欲しい。水面に浮かんだ桜の花弁は絶対に綺麗だ!そこで泳いだら、きっと気持ちがいい!)
「賛成!中庭にも欲しいな」
「そうだね。あの中庭は、もはやククの部屋のようになっているし、いいかもしれないね」
シシはククの部屋のようになっている場所に、自分の桜を求められたことが嬉しくなったようで、龍の尻尾を揺らしている。
そんな尻尾にククは記録器を向けて、桜の木ではなくシシの尻尾に桜を咲かせたいと思っていた。
そんな事を考えていると、ククの中で何か込み上げてくるものがあり、自ら地面に下りて、吸い寄せられるようにシシが生まれてきた桜の木に向かって走った。
「クク!走ったら足が……ッ」
シシが焦った様子でククを追いかけるが、ククのある行動を見て、シシの動きはピタリと止まる。
だが、ククは気にせずに桜の木に抱きつき、突然桜の花弁を集め始めたのだ。
(これを持って行くんだ!この桜の木を中庭に植えてもらって、シシが生まれてきたこの空洞で眠る!その為にも、桜の花弁をたくさん空洞の中に入れないと)
「シシ!この桜の木は僕のものにしてもいい?」
「ッ……い、いいけど……クク、自分が何をしてるか分かってる?」
(何を?……これ、駄目だったの?)
ククは自分の小さな手に握られている桜の花弁を見て、シシから隠すように服の中に入れてシシを威嚇した。
シシは突然のククの行動に、驚きながらも深呼吸をして慎重にククに近づく。
それでもククは威嚇をやめず、シシが両手をあげて座ったところで、ククは漸く威嚇をやめた。
(これは僕のものだ。僕が集めたもので、シシはこの桜の木も僕のものにしていいって言った)
「僕のもの。シシは駄目だって言わなかったのに、今頃駄目なんて言わないよね?」
「大丈夫、言わないよ。それはククの自由にしていいし、俺は手を出さないから。だから……見ていてもいい?」
(見る……見られるのは恥ずかしい。でも、手を出さないなら、見てるくらいは……)
「いいよ。でも、絶対に触らないで。この桜の木を中庭に植えてもらうんだ。僕のものになったから、僕が良いって言うまで触ったら駄目だよ」
このククの行動は、クク自身は気づいていないが、シシは尻尾を揺らしてククの行動に釘付けになるほど、嬉しい事であった。
甘い香りは、まだシシを誘ってはいないが、ククの突然の行動は発情期がくる予兆であり、アルファにとっては最も貴重で、気を抜けば喜びが発情に変わってしまうほどのものだった。
オメガの巣作り。
これはオメガ特有の行動で、無意識に突然おこるものだが、巣作りをするオメガ自体が珍しく、見る事すらできないアルファがほとんどだ。
というのも、オメガを大切にしてこなかった過去と、オメガが巣作りをするほどの愛を、アルファが与えていないからだ。
巣作りは、ツガイを想う気持ちが強ければ強いほど時間をかけて巣を作り、自分が納得するまでツガイにさえ触れさせず、未完成の巣に触れようとすれば、一生ツガイを恨むほどオメガにとっては大事なものであった。
そして、これはオメガによって違うが、ほとんどの場合、巣作りの目的が子作りである。
だが、ククの場合はシシの桜を咲かせたいという気持ちと、自分の巣にしたいと思った桜の木が目の前にあった事、それから運命を決めた事により巣作りが始まったのだ。
「シシ、この桜の木、どうやって移すの?」
暫くすると、ククはシシの元へ戻り、満足げにシシに抱きついて頬に口づけをした。
甘えるようにシシにくっつくククに、シシは内心悶えながらも、術で移動させると言い、決して触れないから安心してほしいと、ククが気になっていた事を話した。
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