第38話 未来への選択



 ククが創造神に解放され、シシとともに作った記録器を渡せば、創造神は喜んで受け取り、そして何やら考え込んでしまった。

 そのため暫くの間、クク達は創造神の宮殿を散歩し、ククの部屋であろう奥の部屋で待っていた。



「そろそろ来るかな。たぶん、眷属とその弟子である使者について、考えていたんだろうね」



 シシがそう言うと、創造神はすぐに部屋にやって来て、今回も東屋に向かうことになった。

 東屋に着くとシシの予想通り、創造神は眷属と使者について話し始め、ついでに使者の修行場についても話す。

 創造神は、眷属と使者を下界の空に住まわせようとしたらしいが、見張りがいない事と古竜が下界で大変そうにしていることから、亡者関連に古竜を関わらせ、悪影響が出てしまったモノノケも纏めて、眷属と使者と古竜に任せたいようだ。

 だが、それにはさすがに神が古竜だけではかわいそうだと判断し、武神や知恵の神などを数名ずつ、交代制で送り込もうと考えているらしい。

 その際、交代制にするのなら様々な記録があった方が、引き継ぎが正確に行われると考えていたようだ。



「それはいいと思うけど、古竜が納得するとは思えない」



「それは大丈夫だよ。彼、そろそろ冥界に帰るはずだから。冥界へは、いつでも戻っていいと許可した。やる事はやるだろうし、ククに対しても問題はないはずだよ。古竜は約束を破らないからね」



「確かに、古竜は約束を破らない。それでもククを口説く……自分のツガイが口説かれるのは、いい気分ではないね」



 シシは不満げにククを抱き寄せ、わざとらしくククの首に口づけをする。

 すると、ククは尻尾を揺らして顔を赤くし、期待の目をシシに向けた。

 そんなククの様子を見た創造神は、微笑みながらククの頭を撫でる。



「クク、大事なことは口にするんだよ。そうでなければ、私が人々に声を与えた意味がない」



「僕は言ってる。シシも言ってくれてる。僕はシシを愛していて、何よりも大切なツガイなんだ」



(ただ、勇気がないだけ。だから運命は発情期になった時に言うんだ)



 ククが、胸を張って創造神に言うと、創造神はニヤリと笑ってシシに目を向けた。

 シシもククの気持ちには気づいているが、今は古竜がククを口説くかどうかの話をしているため、内心項を噛んでしまおうかと悩んでいた。



「口説くのは自由ではあるし、決めるのは本人達次第だよ。けれど、そうだね……ククが望むのなら、他の者とツガイになれないようにする事は可能だよ」



(他とツガイになれない?それって、僕のツガイはシシだけで、他の人とツガイになる心配をしなくて済むってこと?)



「どうする?ククが決めるといい。シシがツガイだろうと、シシが決める権利はないからね。運命のオメガは、一人だけを選ばなくてもいいんだよ。ククが幸せであるのなら、何人でもツガイにしてしまえばいい」



 創造神の言葉に、シシは珍しく殺気を放っていて、ククを強く抱きしめると、龍の尻尾を出した。

 それは、いつでもククの言葉を破壊し、新たに再生させようとしているという事だ。

 ククが、シシの真名を使って運命ではないと言った時に死をもって、その言葉を破壊したように、シシの準備は整っているのだ。

 通常であれば、真名を使って運命ではないと言ってしまったのなら、ククの運命はどう足掻いてもシシではなくなる。



(シシ、もしかして……僕を殺そうとしてる?僕を信じてない?あんなに愛を伝えたのに、それでも不安なんだ)



 ククは、シシが創造神ではなく自分を殺そうとしていると気づいていた。

 そんなククはシシの尻尾を触り、いまだに桜が咲いてない赤い鱗を一枚撫でる。



「シシ、この鱗……僕にちょうだい。そしたら、僕は古竜に口説かれても、何度も断ると誓うよ。あの頃の僕を本気でツガイにしようと思うなら、たぶんツガイじゃなくてもいいって言うと思うんだ」

 


「……確かにそうかもね。鱗なんていくらでもあげる。俺はただ、ククには俺だけのツガイでいてほしい」



 ククはシシの殺気に怯えもせず向き合い、シシもこのチャンスを逃さぬよう、必死でククを抱きしめる。

 そんな状況で、ククはシシの鱗を一枚貰い、それに口づけをして鱗の時間を早めていけば、その鱗は桜の花となったのだ。



「シシ、僕はこうやって時間をどうにかできる。これはシシの未来だよ。桜が咲くんだね。父さん、この未来は明るいと思う?」



「私は未来を知る事はできないけれど、きっとどんな選択をしても明るい未来ではあるだろうね。ただ、その未来がどれほど先の未来なのかは、私にも分からない」



「これは、少ししか早めてないんだ。父さん、僕はこの未来が欲しい。シシの桜が咲く未来が欲しい。その為にも、僕のツガイはシシだけにしてほしいんだ。お願いします」



 ククが鱗を使ってまで未来を見せたのは、シシが必要以上に不安にならない為であった。

 シシは自分の桜がどのようなきっかけで咲くのか分かっていないが、ククの笑顔が水になるのだと言ったため、ククは自分が笑顔になる未来を思い浮かべて、時間を早めたのだ。

 それをシシに説明すれば、シシの抱きしめる力は緩む。



「僕、どの選択をしたら、どんな未来になるのか、だいたいなら分かるんだ。未来は変えられるけど、過去は変えたら駄目だから……僕もシシも笑える未来を、今のシシにも見せたかったんだ。僕の気持ちは最初から決まってるけど、これをシシに見せたかった。僕もシシのことを考えてるんだって伝えたかった。ごめんなさい、シシ。少しでも不安にさせちゃった。許してほしい」



 ククがシシに桜となった鱗を渡すと、シシは殺気をなくして一筋の涙を流した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る