第34話 試練
ククの面白い発想というのは、カメラのようなもので、シシの目を見ていた時に思いついたのだ。
シシがククを目で追っているため、それを真似ていたククが、シシのある行動によってカメラのような発想に至ったのだ。
それは、シシがククの成長を記録している日記である。
シシの当たり前の行動を意識して観察してみれば、シシの目がククの行動を記録しているように思え、ククが笑えばもう一度笑ってほしいと言ってくるのだ。
それならば、時間をそのまま記録できるものを創造してはどうかと、思いついたのだ。
(これで、僕の頬が痛くならない!記録できれば、回数は減ると思う。それに、僕もシシの笑顔は残しておきたい)
そうして、ククが思いついた事をシシに説明すると、シシは面白いと言ってククの頭を撫でる。
そしてそれを作り、創造神が認めればククが時神となって、更には神力を扱いやすくなるだろうと言った。
「止めたり、戻したり、早めたり、それは記録の中の過去だけにするんだ。そうしたら、きっと役に立つよね?シシの役にも立つ?」
「役に立つなんてものじゃないよ。時を記録する事は、一人では大変だろうけど、ククの魔法付与があれば、そう大変なものでもなくなる。それに、俺にとってはククを記録できるというだけで嬉しいよ」
「ふふん、良かった!僕もシシの観察が捗る。笑顔も記録できる」
「俺のツガイが可愛すぎる。まだ亡者探知の神器も作ってないのに、やる気に満ち溢れていて言えない」
(シシ、それはもう言っちゃってるよ。忘れてた僕も悪いけど……どうして言わなかったんだろう)
ククはシシの笑顔を眺める。
シシが何を思っていて、何を考えているのかは、観察しても分からない事が多い。
そんな時、ふと運命を思い出すのだ。
今のシシは何を考え、どのように嬉しいのだろうと。
きっとそれは、自分と似たような感情であっても、大きな違いがあるのだろうと。
「どうしたの?クク」
「なんでもない。それよりも、シシが言ったように神器を作らないと。忘れてた」
そうしてククは神器を作り始めるが、どんな形のものがいいのか分からなかったため、一番簡単な金の塊に亡者探知の魔法を付与していく。
その間、シシはククが作った物をバングルに変えていき、亡者探知が発動するか確認していく。
暫くの間、二人は会話もなく黙々と神器作りをしていくが、集中して作りすぎてしまった結果、シシがククを止めに入った。
「クク……クク……黒白」
「ッ……シシ、どうしたの?」
「もう作らなくて大丈夫だよ。今日は集中してたようだけど、何かあった?」
「何もないよ。それに……僕、こんなに作ったつもりない」
(まだ作り始めたばかりなのに、どうしてこんなにあるんだろう。僕が作ったとは思うんだけど……ん?おかしいよね)
ククは首を傾げながら、自分でも何があったのか分からず、作り始めてどれくらい経ったのかと、シシに確認した。
すると、シシとククの時間感覚が大幅にズレている事が分かり、ククは怖くなってシシに話した。
「……もしかしたら、既に時神になりかけているのかもしれないね。通常なら創造神に認められる必要があるけど……はぁ、息子のことは全て認めてしまってるのかもしれないね。クク、神になるまでの間、宮殿から出たら駄目だよ。というより、たぶん体が思うように動かないと思うから、ベッドで休んでようか」
どうやら、ククが面白い発想に至り、それをシシも駄目だと言わなかった事で、時神になる準備が整ってしまったらしい。
創造神はククのことを全てシシに委ねており、創造神がククのしたい事を認めないなど、あり得ない話だったのだ。
白狼が創造神に確認しに行った結果、このような事になっており、創造神はククが時神となる事を喜んでいたようだ。
「喜んでたのか……あの神ならそうだろうね。ククは辛そうにしてるのに」
(気持ち悪い。なんか、世界が歪んで見える。僕の時間とシシの時間が違うのが気持ち悪い)
時神はククが思っていた以上に、クク自身に影響を与えていた。
時空というものを、ククは知らなかったのだ。
時間というものは、空間や物質に作用するものであり、世界にある全てのものに時間というものは存在する。
それを理解しきれていなかったククは、強制的に体験している最中なのだが、それがククにとっての神になる為の試練のようなものだった。
だが、まだまだ未熟なククがひとりで乗り越えられるものではなく、ククはツガイであるシシに助けを求めた。
「シシ……たすけて。こわい。そばにいて」
「大丈夫だよ、クク。俺をククのそばに置いて。ククが俺を求めるなら、一緒にいることはできる。ひとりで乗り越えられないのなら、俺が一緒に体験してあげる」
簡単な話、ククがシシを運命にしてしまえば、ククはひとりで苦しまずに済むのだが、これだけ苦しんでもククはシシを運命にはせず、シシも運命を口にしない。
ククはシシの手を握り、シシもククを抱きしめて、長い月日を二人きりで過ごした。
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