第28話 狼獣
神々の呼び名をここで呼んでもいいのかと、ククがシシに確認するとシシは頷き、ククも挨拶をする。
だが、ククがシシのツガイであることを言わなかったからか、シシはククの肩を掴んで、優しくツガイである事も必ず言うよう教えた。
「分かった。冥王のツガイのククです。よろしくお願いします」
「うッ……可愛い。俺のツガイが可愛すぎる」
シシが崩れ落ちて悶えると、死神と狼獣と産神は呆れたようにシシから目を逸らし、創造神の方を見る。
だが、創造神は既にククの背後に立っていて、嫌な予感がした死神と産神は、片手で目を覆った。
「クク、私の息子だという事も言うべきではないかな?創造神の息子のククです、と言ってごらん」
「冥王のツガイで創造神の息子のククです。よろしくお願いします」
(挨拶するのって大変なんだね。いろんな情報を、この一瞬に詰め込まないといけない)
ククが言われた通りに何度も挨拶をし直すと、死神と狼獣と産神の三人は、順番にククの頭を撫でていく。
その表情には、憐れみのような感情が含まれており、なぜそんな表情をするのかと、ククは首を傾げた。
「それで、三人は俺達と冥界に行くつもり?」
「そうじゃ!儂は眷属も連れて行くからのう。冥王とともに行けば、儂の神力を大量に使わずに済む」
「私達は白狼に呼ばれたから来た。冥獣を連れ戻すんだろう?私達も手伝う」
「ついでに、クク様に挨拶がしたくてな。早めに挨拶した方が、俺達を覚えてもらえるだろ?」
産神、死神、狼獣の順で話していく。
だが、そんななかククの目は狼獣の尻尾に向けられていて、死神と狼獣と白狼を見比べていた。
「この二人には、例の話はしてあるよ。そのうえで、ジジの眷属は大丈夫だと判断した。シシ、安心しなさい。それに、衰退によって産神の信者が減っているんだ。冥界への移動に協力してくれないかな?」
(ジジ様、大変なんだね。僕も大変だ。ロロ様は死神だけど、白狼と狼獣みたいにモフモフじゃないんだ。もしかして、白狼と狼獣がモフモフ担当なのかな)
「分かった……けど、冥獣とその眷属は連れて行かないからね。白狼もその為にロロと狼獣を呼んだのだろうし」
「それならば、私が連れて行こう。狼獣、キミは白狼とともにククのそばにいるといい」
そう言って、死神がすぐさま冥獣を連れ戻しに行き、産神は自分の眷属を陣の元へ集めに行った。
そして残った狼獣は、ククと目線を合わせるように屈み、獣の耳をピクピクと動かす。
(うわぁ……獣人の耳だ!こんなに近くで見るのは初めて……ッ)
狼獣が獣人の姿である事に、ククは陸での事を思い出してしまい、無表情になって狼獣から離れようとした。
だが、シシはククを抱き上げ、大丈夫だと言いながら、ククの背中を優しく撫でる。
ククが今になって匂いを気にしているため、シシはククにも聞こえるように、狼獣に匂いの確認をする。
「狼獣、正直に言いな。ククの匂い、どう思う?」
「俺はベータだし、アルファほど鼻は良くないけど……匂いがしない。運命のオメガは、何人でもツガイにできるはずなのに、匂いが全くしない。それを確認する為に近づいたけど、クク様を怖がらせたなら謝る」
(匂いがしない?僕、匂いがしなくなったの?)
「ツガイといる間は、悪臭もしないはずだよ。ツガイに守ってもらえている自覚があれば、自己防衛をする必要はないからね。それに、シシの威嚇フェロモンの方が酷いじゃないか」
「うんうん。冥王の威嚇フェロモンで、あのアルファ二人は逃げるように行ったしな。なんなら、ロロは俺をここに置いて行きやがった。まあ、可愛いクク様のそばにいれるなら、なんでもいいけどな」
威嚇フェロモンとは、アルファが放つ神力、眷力、妖力、魔力、といった微量の力を香りにして威嚇相手の体内に侵入し、力の差を刻みつけるように恐怖を与えるのだ。
だが、そんな事を知らないククは、シシも威嚇をするのかと、シシの顔を間近で見つめる。
「……クク、近いね。そんなに見つめられると、今すぐ宮殿に閉じ込めたくなる」
「キュッ……閉じ込められるのは嫌だ」
「可愛いからいいけど、今の話で分かったでしょ?もう匂いは気にしなくていいんだよ。安心して、ククにはいつでも俺がいるから」
シシはククの首元に顔を埋めると、微笑みながら目を瞑り、ククの匂いを確認する。
今のククは、シシを誘う匂いは放っていないが、シシにとって落ち着く匂いではあるのだ。
「シシ、下ろして。もう逃げない。シシがいたら大丈夫なら、僕も気にしないようにする」
(最初は忘れていたくらいだし、大丈夫なはずだ。それに、僕にはシシがいる。シシはいい匂いだって言ってくれたし、他の人に臭いって言われたら、迷惑にならないように離れたらいいだけだ。僕はシシのツガイで、創造神の息子なんだ。下界でも、一応第三王子だった。堂々としていないと)
ククは地面に下ろしてもらい、もう一度近づいてくる狼獣の耳を見て、触ってもいいかと確認する。
狼獣はククに触れてほしかったようで、白狼のようにいつでも触ってほしいと言ったため、ククは遠慮なく耳と尻尾に触れたが、結局白狼の元へ戻り、白狼の毛に埋もれた。
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