第27話 新たな神
ククは意識がはっきりすると、隣で眠るシシをそのままに部屋を見渡した。
ククにとって懐かしい場所であり、創造神の時のように、はっきりとは思い出せなくとも、かつて自分はここにいたのだと分かった。
(僕の部屋だ。ここにシシがいるのは……不思議な気分だけど、嫌じゃない)
「クク、起きたの?調子はどう?」
目覚めたシシは、ククの尻尾を撫でながら、目は開けずにククを抱き寄せる。
「元気だよ。シシはいつも疲れてるね。おじいちゃんみたい」
「おじいちゃんはやめようね」
「僕、悪い子?」
「ククはいい子だよ。嘘でも、悪い子なんて言ってあげない」
(むっ……別に悪い子って言われたいわけじゃないけど、シシの悪に当てはまるのが、僕じゃないのは気にくわない)
ククはシシを真似ていて、シシに育てられている。
だからこそシシと同じように、自分に全てを向けてほしいと思っていたが、本人はその事には気づいておらず、シシだけが理解していた。
だが、例え理解していても、シシがククを悪だと決めつける事は決してない。
そしてククには、自分が思う悪い事をさせるつもりもない。
「シシの全部は僕のものなのに」
「ぐッ……可愛い。ククは俺をどうしたいの?」
「どう?……愛したい。シシと同じ愛で、僕もシシを愛したい」
「かっ、かわ……いや、むしろかっこいい。ククは本当に素敵だね。こんなに魅力的なククをツガイにできて、俺は幸せ者だよ」
(これで幸せなの?僕はまだまだシシを愛せてないし、発情期だってきてないし、運命だって……渡すつもりはないのに)
ククは確かにシシのツガイとして育っているが、いまだに自分の運命を渡す気はなかった。
好きではある。
シシを愛したいという気持ちもある。
むしろ既に、相当愛しているはずなのだ。
だがしかし、運命を渡す気はない。
それほど、運命のオメガの運命は貴重であり、ククは本能的に気づいていたのだ。
運命を渡してしまえば、自分の魂は永遠に縛られてしまうのだという事を。
「シシは、どうして僕の運命が欲しいの?」
「突然どうしたの?珍しいね、ククから運命の話をするなんて」
「知りたかっただけ。運命なんて関係ないのに、どうして運命を欲しがるのか」
「……関係なくはないよ。全てを共有できるんだから。共有できない感情も経験も……ククだけの宝物を俺とも共有できる。その逆も同じ。ククが知りたがっている、俺の決めた悪も知る事ができるよ」
シシの答えは、ククにとっても魅力的で、それはどんな宝よりも価値のある宝であると思った。
きっとシシもそうなのだろうと思ったが、同時にシシの運命は誰なのだろうとも思ってしまった。
運命は互いに運命であると認識し、運命のツガイとしてアルファがオメガの項を噛まなければ、運命は成立しない。
だが、それを知らないククは、またしても一人で考え込んでしまう。
「クク、嫌な予感がする。今、何考えてる?」
何度もククの思い込みを経験したシシは、嫌な予感がしてククの顔を自分の方に向けた。
そこでククは、シシの運命を知る事が怖いと思いながらも、シシの運命は誰なのかと訊く。
「良かった。今回は殺さずに済んだ」
「ヒッ……ぼ、僕はもう殺されたくない」
「安心して。俺もできれば殺したくない。ただ、俺は俺の運命が離れようとすれば、どんな手を使ってでも止める」
そこで、ククが首を傾げて考える素振りをするが、変な方向に考えないよう、シシはすぐさま運命について説明をした。
シシからしてみれば、ククが運命である。
だが、ククが運命を渡さないために、どれだけ項を噛んでも、運命のツガイにはなれないのだと言った。
「ククがいつ俺を運命に選んでもいいように、毎日欠かさず噛んでるでしょ。いつも嫌がるから、この意味は知ってるものだと思っていたよ」
「噛まれるのは痛いから嫌だっただけで、シシは噛み癖があるだけなんだと思ってた」
(あと、縛りつけられてる感じがして、獲物を逃がさない為にしてるのかな、なんて思ってた)
「痛かった?ごめんね。今度からはもっと優しく噛むよ」
そうしてシシが、ククの項に噛みつくと、ククは今までに感じた事のない感覚に襲われ、痛みではない何かを感じた。
だが、シシの牙が離れると、何も感じなくなり、気のせいかと思ったククはシシの拘束から抜け出した。
その後、二人は創造神の元へ行き、今回は庭ではなく創造神の部屋へ行く。
するとそこには、白狼の他に狼獣人と神のような雰囲気を纏う二人の男性がいて、シシは死神と産神だとククに教えた。
「狼獣人の姿だが、一応死神のうちの一人で、呼び名は白狼と同じで無い。ただ、
狼獣は白狼のような眷属ではないため、白ではなく灰色の毛並みに金色の瞳を持つ。
そして同じ灰色の髪に金色の瞳を持った、もう一人の死神は、背中に狼が描かれた服を着ていて、ククに近づくと優しく微笑んだ。
「おかえり、クク。私は冥王を主とする、死神の本体と思ってもらっていい。皆、私を死神と呼ぶが、呼び名はロロだ。よろしく」
(おかえり?僕、どこかで会ったかな)
「久しいな、クク。儂は産神、呼び名はジジ。お爺ちゃんと呼んでくれても良い」
産神は、声だけを聞けばお年寄りだが、外見は茶色の長髪に緑の瞳が目立つ美形の男性だ。
死神とは違い、『久しい』と言った産神の緑の瞳には、ククも見覚えがあった。
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