第21話 ククの成長



 人々の衰退は、深刻な問題のように思えるが、創造神からしてみればシシの問題よりも深刻ではなく、どうにでもできる問題だった。

 そのため、創造神は衰退していく現状を利用し、『運命のオメガ』という特別な存在を世界に植え付け、自身の視力と引き換えに、小さく弱い魂を生み出した。

 ではなぜ、小さく弱い魂としたのか。

 それは『運命のオメガ』という、難易度の高いオメガをツガイが育てられるようにする為であり、シシの全ての愛を注ぎ続けても、愛を受け入れ続けられるようにする為だった。

 要は、ツガイ次第でどうにでも変化できるようにする為の、赤子のようなものというわけだ。



「けれど、勘違いしないでほしい。黒白は、小さく弱い魂である運命のオメガとして生み出しただけで、他は皆と同じだよ。シシが黒白を愛するかも分からなかったし、黒白が何を望んで下界に行ったのかも分からない。黒白は、いつの間にか私の元から去っていたからね。きっと、強く望んだものがあったのだろうけど、自分の子が急にいなくなったのは悲しくてね……暫く奥の部屋から出られなかった」



(うぐっ……なんかごめんなさい)



「なるほどね。それなら、創造神の前で誓うのは、ある意味合ってるのかな。息子さんを俺にくださいって事で、創造神黒天コクテンに誓う。黒白を永遠に愛し、幸せにする。俺の愛は全て黒白に捧げよう。そして、黒白に何かあれば、世界がどうなっても構わない」



 誓いというより脅しのように聞こえるシシの言葉に、創造神は微笑んだまま固まり、ククの手を密かに引っ張るが、シシはそれを見逃さずにククを引き寄せる。

 そんななか、ククは二人に愛されている事に、尻尾を揺らしながら喜んでいた。



「はぁ……黒白が壊れてしまうような事があれば、まず私が許さない。古竜は下界に送り、増え続けるモノノケの回収を頼んだからね。それが終われば戻ってくるだろうけど、無理に黒白を奪う事はしないはずだよ」



「俺なら下界に追放する」



「それは、やり過ぎだよ。そもそも、運命のオメガは誰のツガイにもなれる。これは、黒白にも選択肢を与えたかったからだよ。かと言って、半端な想いで黒白に近づいてほしくはない。運命のオメガは、シシの愛を受け入れられるようにする為のものでもあるけど、黒白が幸せになる為のものでもあるんだよ。それに、キミも古竜のことは言えないはずだよ。二度も私の息子を殺している」



 ここで、ククは自分が何の為に存在するのか気づいた。

 シシの為でもあるが、自分は愛し愛される為に存在し、創造神が唯一、自分の立場など気にせずに肩入れし、愛する事ができてしまう存在なのだと分かった。

 それに気づいてしまえば、自分も与えられる愛を受け入れ、自分なりの愛を返し、父である創造神が肩入れしても、冥王であるシシのツガイであっても、誰にも文句を言わせない存在になりたいと感じた。

 恋をしたい、愛したい、愛を知りたいと思っていたククが、自分なりの愛を返したいと思うのだから、ククも成長していると言えるだろう。

 自分なりに返すというのは、自分にあるもので相手に応えるという事にもなる。



「父さん、僕も誓うよ。僕はシシを愛していく。でも、父さんから貰ったもので、僕も父さんの力になりたい。父さんに、目が見える魔法を付与した飾りを贈りたい。僕はシシに縛られないよ。もっと沢山、いろんな事を知って、自分のことは自分で考えるんだ。だからシシ、僕はこの術を隠さない。それに、これはシシが教えたんだ。僕が僕なりに何かを返したいと思うのは、僕が沢山貰ってるからだよ。シシから愛を貰ってるから、僕も今の僕なりにシシに愛を返していく。そして今は、父さんに返す時だ」



「ハハッ……ククは本当に、思い通りにいかない。そんなククも愛しいと思うんだから、これは惚れた弱みだよね。その笑顔で言われたら、駄目だなんて言えないよ。ただ、覚えておいて。ククが傷つくことはあると思うし、ククを騙そうとする奴だって出てくるかもしれない。勿論、俺も守るし、今まで通り駄目な事は駄目だと言う。それでもククと俺の意見が合わなかったら、喧嘩でもしようか」



 シシが不適な笑みを浮かべると、ククは勝てる気がしないと思ったが、それでもコクリと頷き、創造神と向かい合った。

 そして、目が見える魔法を付与した、飾りという名のガラスの塊が出てくると、それをシシがモノクルに作り変えた。



「父さん、僕の飾り受け取ってくれる?」



 ククが創造神の手にモノクルを置くと、創造神は微笑みながら頷き、「ありがとう」と言ってモノクルをかけた。

 すると、創造神は感動したように涙を流し、ククと片目を合わせて頭を撫でた後、優しく包み込むようにククを抱きしめた。



「黒白……あぁ、私の可愛い子。この目で、息子を見る事ができるなんて、どんなに幸せなことか」



「それは透視の魔法が付与されている。なんでもできる創造神が、視力に関する全てを失ったことは、ずっと疑問でしかなかったよ。魔法を付与できる術をククに渡したのなら、納得だけどね」



「シシ、もう既に黒天と呼んだのなら、黒白の前では呼んでも構わないよ。それと、黒白……いや、ククもいる事だ……私の本来の呼び名を伝えておこう。家族には伝えるものだからね。私は創造神、創生刻天ソウセイコクテン。これを知るのは、ククとシシだけだ。私を呼ぶ時は、今まで通り呼んでほしい」



 そう言った創造神に、シシは眉を寄せたが、創造神がククを抱きしめながら人差し指を立てると、シシはため息を吐いた。

 そしてククは、そのため息の意味も、創造神の呼び名が本当は真名であるという事も、なんとなく気づいていて、それでも気づかないふりをした。

 それが、父親に対する息子としての振る舞いであり、そんな子どもとしてのククを、創造神が望んでいると感じたからだ。





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