第20話 創造神
宮殿の中は豪華ではあるが人気がなく、シシの宮殿のように眷属達が自由に出入りする様子もない。
(ここも、足が痛くない。シシの宮殿みたい。でも、少し寂しいかも)
「シシ、ここに創造神がいるの?」
「そうだよ。ククにはどの名前を名乗るのか楽しみだ」
名前がいくつもあるのかと思ったククは、シシに訊いてみた。
すると、下界では国によって呼び名が違うらしく、創造神とは呼ばれていないようだ。
シシの場合は冥王、古竜の場合は古竜と、そのままの呼び方であり、呼び名は知られていない。
だが、他の神々は呼び名が知れ渡っているようで、創造神の場合は最高神と認識され、呼び名がいくつもあるのだと言う。
「それと……まあ、今はいいか。その話もするつもりだし。ほら、着いたよ」
シシは何かを言いかけたが、中庭に着くとククの腰に手を置き、ククがシャラシャラと音を鳴らして庭に足を踏み入れた。
すると、中庭の大きな木の下に立っていた、黒髪の男性が振り向いた。
長い三つ編みが揺れ、真っ白の瞳は何も映さず、ただ優しげに微笑む美しい男性に、ククは首を傾げる。
(創造神?やっぱり、創造神って言われても、あまりピンとこない。この感じ、なんて言えばいいんだろう)
「よく来たね、黒白。会えるのを楽しみにしていたよ」
真名を呼ばれたククは、シシから離れて創造神の元へ行き、突然手を繋いで創造神の瞳を見つめる。
ククの行動には、シシも白狼も驚いた様子だったが、創造神はククの手を頼りに、上へ上へと触れていき、ククの首から頬に触れ、嬉しそうに口を開いた。
「大きくなったね、黒白。私は創造神――」
「父さん。そうでしょ?僕の父さんだ。その目……どこかで見たことある。どこだっけ」
ククが『父様』とは呼ばず、『父さん』と呼ぶ。
それも、創造神を父だと言うククに、さすがのシシもククを抱き寄せて、ククに言い聞かせるように「創造神だ」と訂正をする。
だが、ククは首を横に振り、創造神も同じく首を横に振ったのだから、シシは混乱して創造神を問い詰めようとする。
だが、そんなシシよりも先に、創造神がククの頭を撫でながら口を開いた。
「黒白は私の子であり、私の目でもある。視力と引き換えに、小さく弱い魂を作り出した」
「……どうして。視力を突然失ったかと思いきや、誰にも言わずにコソコソと……俺も見たかった!ククの小さい魂!」
「……黒白、シシに嫌な事をされていないかい?少し変態じみている気がするが」
「嫌な事はされたけど、僕もシシを傷つけたからお互い様になった」
ククはシシに抱きしめられながら、創造神の白い瞳を見つめる。
だが、残念ながら創造神と目が合う事はなく、ククは寂しい気持ちになり、その寂しさが懐かしく感じた。
「そうだ。シシに訊きたかった事があるんだよ。これで漸く、息子のことが分かる。シシ、黒白の魂は藍色かい?」
「……あなたの瞳のような藍色だ」
「それは良かった。私の一部を黒白に贈れたのなら、それでいい。どんなものが引き継がれたのかは分からないが、シシのツガイとしても役に立ってくれるはずだよ」
そこで、ククもシシも魔法の付与のことではないかと思い、シシが創造神に伝えた。
すると、創造神はまたしても楽しそうに笑い、ククの頭を撫でながら、シシの頭まで撫でたのだ。
「シシ、大変だろうけど黒白を頼んだよ。黒白はキミの為の存在なのだから」
「は?……その話、詳しく説明してもらえる?」
(僕も聞きたい。僕って、最初からシシのツガイだったのかな)
「それなら、座って話そうか。悪いけど、手を貸してくれるかい?シシがいては、あいつが怯えて来てくれないからね」
そうして、ククとシシが二人で創造神に手を貸し、庭にある
既に座って待っていた白狼は、そのまま動かずに、池の中を覗いている。
「さて……どこから話そうか。シシの楽しみを奪ってしまったところから話すかい?」
「それはククも知ってるし、俺はもうククしか愛さないから大丈夫だよ」
「それなら話が早いね。実を言うとね、私はシシの異常な愛が恐ろしかったんだ。シシは魂を愛し、生と死を愛する。世界すらも無にし、新たな世界を創造できる神は、私以外ではシシくらいだ。だからこそ、天界には私。冥界には冥王。下界には他の神々。こうして棲み分けをしていた。そうでなければ、シシは破壊と再生を繰り返していたはずだよ」
すると、シシはククをチラリと見て、フッと息を吐き、実際に冥界を燃やし尽くした事が、何度もあると言った。
それは、魂を燃やす際に歯止めが効かず、冥界をも燃やしていたと言うが、そこからまた新たに再生する瞬間を愛していたシシにとって、どちらも溢れ続ける愛である事を、創造神は知っていた。
そして、シシ自身が自分の愛を制御できるよう、少しずつ神々を増やし、シシの楽しみを奪い、古竜とともにモノノケや冥獣を冥界へ移す事で、魂以外に興味を持ってほしいと思ったようだ。
しかし、シシは変わらず魂を愛し続けた。
そこで、創造神は第二の性を作り、人々のさまざまな愛を見て、シシが変わるきっかけになれば良いと思った。
だが、第二の性は争いの種となり、現在は緩やかに衰退に向かっている。
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