第19話 天界
指輪が完成した日から、ククは毎日のようにシシに魔法を付与した物を贈った。
形は歪であっても、魔法の付与は回を重ねるごとに上達していき、ククはとにかく防御系の魔法を付与し続けた。
「クク、そろそろ行くよ」
これから天界へ行く予定なのだが、またしてもシシと白狼だけを部屋から出し、今は眷属達に手伝ってもらって着飾っているところだ。
シシと白狼を部屋の外へ出したのは、今回は眷属達の方であり、ククは化粧までされている。
オメガが着飾り、化粧をして結婚式を行うのは当然のことであったが、ククにはその知識がなかったため、眷属達が張り切っているのだ。
「シシ、助けて。僕の顔が真っ白」
ククが助けを求めると、シシはまさかの扉を蹴り飛ばしてしまい、慌てた様子で入って来たかと思えば、蹴り飛ばした状態で動かなくなる。
頬は赤く染まっていき、龍の尻尾がズルリと出て揺れてしまうほど、気持ちが昂っている。
一方、助けを求めたククの方は、シシのいつもと違う姿と蹴り飛ばした格好に頬を染める。
(シシ、凄くかっこいい!)
「クク、あぁ……クク……そんなに綺麗になってしまって……誰に見せる気?可愛い可愛い可愛い」
「キュッ……シシが壊れた」
物凄い勢いで抱きしめられたククは、尻尾をピンと伸ばして困惑する。
そして、褒められているのか怒られているのか分からず、理解が追いつかないまま口を大きく開け、ギザギザな歯を見せつけるように「シャーッ」と、威嚇した。
「あぁ、本当に可愛い。久しぶりにククの威嚇を見た。可愛いのに、こんなに綺麗になってしまうなんて……誰にも見せたくない」
「シシ!結婚式と新婚旅行は絶対!約束したのに、また破る気?」
「……破らない。約束は守るよ。ごめんね、クク。怒らないで」
ククが動くたびにシャラシャラと鳴る飾りは、癒しの効果があり、ククもシシも冷静になって部屋を出た。
「クク、本当に綺麗だよ」
「ありがとう。シシもかっこいい」
「ふふっ、ありがとう。ククにかっこいいと言ってもらえるのは嬉しいな」
「僕も……嬉しい。でも、顔が真っ白だ」
「そう?ククは元々白いから、目元に色を入れるだけで更に白く見えてるだけじゃないかな?」
ククは、そういうものなのかと思いながら、隣を歩く白狼の背を撫でる。
するとシシは突然、ククを抱えて白狼の背に横向きで乗せた。
「うん、この方が更にククが映える。創造神の元に行くまでは、このままでいよう。白狼は尻尾を振らないように」
そうしてククは白狼の背に乗ったまま、宮殿の隣にある神殿のような場所へ行き、シシが印を結んで術を使えば、足元には光の陣が浮かび上がった。
そこで、少し怖くなってしまったククは、シシの服と白狼の毛を掴み、ギュッと目を瞑る。
少しの浮遊感の後、空気が変わったような気がして目を開けたククは、無表情で固まった。
「クク、ここが天界だよ。不安だったら、そのまま服を掴んでていいからね」
ククはシシの服を握りしめる。
天界は雲の上にあるようだが、地面は冥界と同じく水があり、水中には見たことのない魚が泳いでいる。
そして水上都市のように、豪華な宮殿がいくつも建っていて、自分達も含めて皆が動く橋の上を移動する。
(この橋、どうなってるの。動いてたら、どこに着くか分からないはずなのに、シシも白狼も平気みたい)
ククはもはや喋る事もなく、シャラシャラと飾りの音が鳴るだけで、無表情でおとなしくしているため、可愛らしくも美しいオメガは注目される。
そしてなにより、シシがいるというだけで、一部の神々や眷属は頬を赤くする。
だが、ククも負けず劣らず魅了しているため、天界は静まり、シシは眉を寄せながらも、ククと目が合えば甘く微笑んだ。
(シシはなんで笑えるんだろう。こんなに見られて、人が寄って来たりしたら、僕の匂いで迷惑かけるのに)
「シシ……匂い」
「気にしなくても大丈夫だよ。匂いが分かるほど近づいてくるなら、俺と白狼で追い払うから。それよりも、結婚式と新婚旅行を楽しもう。結婚式は、どうせ本物の創造神がいるんだし、創造神の前で誓えばいい」
シシの創造神への態度は、あまり良いとは言えないが、ククに勘違いをさせてしまった相手に、一言文句を言いたいと思っていた。
そしてククの方は創造神と聞いて、シシの腕に絡まるようにシシを引き寄せる。
「クク?どうしたの」
「シシは僕のツガイ」
「ッ……どうしたの!そんっな可愛い事、なんでこんな場所で言うんだ!誓いの言葉?それってククの誓いの言葉だよね?」
(なに言ってるの。事実だよ。誓いの言葉はもう他に考えてある)
他人が多いこの場所では、無表情でククの気持ちは読み取れない。
だが、尻尾は白狼に叩きつけるように荒れていた。
そんなククを見た周りの者達は、白狼が死神のうちの一人である知っているためか、青い顔でその場を離れた。
そうして中心部にある最も大きい宮殿に着き、ククはシシによって下ろしてもらうと、シシの腕に掴まりながらも自分の足で歩き始めた。
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