第18話 勘違い
一向に話が進まず、二人ともほんのり頬を染めながら微笑んでいる。
そんな二人の世界に割り込むように、白狼が書庫へ入ってきた。
白狼は護衛の為に、常にククのそばにいるため、書庫の外で待機していたのだが、あまりにも遅いため中を覗いたのだ。
だが、すぐに察知したシシが白狼を睨みつけたまま、入ってくるよう言ったため、白狼は恐る恐る書庫に入ってきたのだ。
(また白狼だ。僕のこと嫌ってるはずなのに、なんでいつも来るんだろう)
ククはいまだに勘違いをしている。
白狼はククの護衛でありながら、眷属のなかでは誰よりもククに夢中になっているのだが、ククは白狼が来ると無表情になる。
「邪魔が入ったね。クク、何か言いたい事があったんじゃないの?」
「……やっぱりいい」
(本当は、この指輪のサイズを合わせてもらおうとしたんだけど、また白狼に呆れられる。こんな事もできないのかって思われたら、もっとシシとの時間を邪魔されるかもしれない)
ククが白狼をどう思っているのか、シシは薄々気づき始めていた。
きっと勘違いをしているのだろうと思いながらも、訂正しようとはしない。
ククが白狼にだけは、何も言わない事が不思議でならなかったからだ。
(そうだ、これを機に護衛はいらないって、シシに言ったらいいんだ)
「シシ、護衛はもういらないと思う」
「駄目だよ。何かあってからじゃ遅いからね。白狼がいても、古竜相手にはククは攫われてしまったし、白狼以外が護衛になっても、正直意味がない」
「じゃあ、尚更白狼は解放してあげるべきなんじゃ……」
「古竜相手にはさすがに無理でも、白狼は他の神々には負けないよ」
白狼はモノノケの姿をした眷属であっても、死神のうちの一人であるため、力があるのは間違いないだろう。
だが、それを知らないククは、どうしても白狼を解放したかった。
せめて護衛から解放すれば、白狼が邪魔をしてくる事も減るだろうと考えたからだ。
「クク、もしかして白狼が嫌い?」
「……嫌ってるのは僕じゃない。僕は白狼に呆れられてるし、こうしていつもシシとの時間を邪魔される」
ククは拗ねた子どものように、頬を膨らませて俯向く。
それを見たシシは、心の中で悶えながらも冷静を装い、ククの頭を撫でた。
そして白狼は、自分がククの心に残っている事に、感動している様子で尻尾を振りながらバタリと倒れた。
「あー……あのね、白狼はククのことが好きというか、崇拝してるというか……ファンだと思っていいかな」
「ファン?ファンってなに?」
「下界で流行ってたようだけど、ククは知らなかったか。そしたら、信者みたいなものだと思ったらいいよ」
(信者?あの白狼が僕の信者?)
ククは倒れている白狼を見た後、どこか気まずくなってスッと目を逸らした。
自分が思っていた白狼と違いすぎて、現実を受け止められないのだ。
「モノノケのほとんどはククのファンだよ。だからね、邪魔をしてると思ってるのは、ククのことが気になって仕方ないから。呆れてると思ってたのも、ククに魅入られて息をするのも忘れてたから、苦しくなって息を吐いてたんだよ」
「……なんか、ごめんなさい。僕、勘違いしてた。白狼に監視されてるみたいで、シシのツガイに相応しくないって思われたくなかった」
「だから白狼には何も言わなかったんだね。俺のツガイに口出しする奴を、俺がそばに置くと思う?それに、俺の方が必死なのに、ククが俺に相応しくないなんてありえない」
ククの勘違いが解決したところで、何が言いたかったのかと、シシは再びククに訊く。
そこで漸く、ククは握りしめていた二つの指輪をシシに見せ、サイズを合わせてほしいと頼む事ができた。
「喜んで手伝わせてもらうよ。ついでに、バングルと繋げてしまおうか」
すると、ククは花が咲くような笑顔で尻尾を振り、目を輝かせてシシを見つめた。
その貴重なククの笑顔に、シシは一瞬固まってしまったが、すぐにククを隠すように白狼から見えないように、頬に口づけをする。
そこで、ククもシシにお返しの口づけをすると、シシはついに悶えてしまい、白狼は前足で自分の目を覆っていた。
(シシ、苦しそう。白狼も……これって、僕を視界に入れたくなくて、やってたわけじゃなかったんだ。いつも、僕にくっついてきてたのも、邪魔してたわけじゃなかった)
ククはもう一度笑みを浮かべる。
それは、白狼に向けた笑みで、シシに見せるような笑顔とは違うが、友である海龍に見せていた笑みと似ていた。
「ッ……クク、もしかして白狼を友達にでもした?」
「友達?うーん、確かにそうかも。昔、仲良くしてくれたモノノケがいたんだ。その友達は、僕をいろんな所に連れ出してくれて、たまに稚魚の友達も連れてきてくれてたんだよ。楽しかったんだ。友達は僕にとって特別だったから……だから、白狼も友達になってくれるなら、仲良くしてほしい。ずっと嫌われてると思ってたから、友達になれるなら毛を触らせてほしい」
ククは白狼の毛に埋もれてみたかった。
だが、嫌われている相手にそんな事はできなかったため、嫌われていないと分かった途端、一番に毛を望んだのだ。
そして、シシは自分の頭を撫でてからであれば、白狼を撫でてもいいと言ったため、ククは喜んでシシの頭を撫でて抱きつき、シシが抱きしめ返す前に白狼の毛に埋もれた。
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