第17話 歪な指輪(sideシシ)



 魔法の付与について、あまり気にしていない様子のククを見たシシは、眉間に指を押し当てる。

 あまりにも突然の事で、やはり自分のツガイは特別だ、と思う反面、この事は創造神に報告する必要があるだろうと、頭を悩ませる。

 そんなシシの悩みなど知らず、ククは書庫で指輪を作ろうとし、印を結びながら力を入れる。



(可愛い。尻尾がプルプルしてる。そにしても、なんでククが……まさか、ククは神格化したのか?俺のツガイで、魂も染まってる。それでも神にはなってないはず)



 シシがそんな事を考えていると、ククはシシの裾を掴んで、困ったような表情で見上げていた。



(うわっ、可愛い!また何かあったのかな)



「どうしたの?」



「出ない。指輪のイメージはしてるのに、出てくる気配がしない。神力が戻ってくるんだ」



(神力が戻ってくる?そんな事あるのか?術が発動しないという事は、何かが足りないという事だけど……さっきは小さくても金の塊が出た。創造の術は一回コツを掴めば、ククでも使えると思うけど)



 シシは、もう一度ククに印を結ばせるが、術が発動している様子はあっても、確かに神力がククの体内に戻っていく。

 そこで、ククに魔法の付与をさせてみると、歪ではあるが穴の空いた金の塊が、今度は指のサイズでできあがったのだ。



「できたね……ククは魔法を付与させないと、創造できないのかもしれない。これは、防御の魔法かな。転んでも怪我をしないっていうのはいいね」



 シシはククを褒める事を忘れない。

 ククが落ち込まないように、良いところは褒めてあげれば、ククは尻尾を揺らしてフワリと笑った。

 そんなククを見てしまえば、抱きしめる以外の選択肢はなく、シシはククを抱きしめて頬に口づけをする。



「これなら、結婚式で転んでも怪我はしないね。シシが作ってくれた服も、血で汚れないで済むよ」



(可愛い。血で汚れなくても、土で汚れるとは思わないあたりが、ククらしくて愛おしい)



「じゃあ、ククの指輪はその魔法を付与して、俺の指輪には、ククの位置を把握できる魔法でも付与してもらおうかな」



 術を使えば、ククの位置を知る事など、シシにとっては造作もないが、すぐに発動できるというのは、やはり便利なのだ。

 特に、緊急時には便利なものだからこそ、シシはククを見つけ出す魔法を選んだ。



「分かった。でも、僕を縛るのはやめてね」



「そんなに警戒しなくても、宮殿に縛るつもりはないし、宮殿と冥界では術を使わなくても、ククの居場所はすぐに見つけ出せるよ」



 ククは少し警戒しながらも、過去を思い出したのか、納得した様子で再び指輪作りをする。

 失敗した物は、シシが手を加えてククの飾りにしていく。

 シシが手を加えても、魔法は変わらず付与されていて、別な魔法が付与された物同士を合わせれば、魔法が二つとなり、同じ物であれば魔法の効果が倍になる。

 実験を楽しんでしまっているシシは、使える飾りを増やしていき、自分の飾りも増やしていく。

 だが、あまりにも失敗した物が多かったため、バングルやバングルと指輪を繋げる飾りまで作り終えてしまった。



「クク、これはいいんじゃない?俺は好きだけど」



「でも少し曲がってる」



 ククはオシャレというものを、あまり分かっていなかった。

 そのため、少しでも曲がっていれば、失敗物としていた。

 そこで、シシは服や飾りが載っている本を取り出し、ククに見せる。

 全部が完璧である必要はないのだと教え、少し歪なくらいがちょうど良く、思い出にもなるだろうと教える。

 すると、ククは急にシシが作った飾りを見ていき、曲がっている物や綺麗に整えられた物などを、自分が作った指輪と見比べていく。



「……ちょっと分かった。オシャレ?こういうデザインだと思えば、僕が作った指輪もいい感じ」



「俺はククが作った物なら、どんな物でもいい物だと思うけどね」



「えっ、僕の出したやつで実験して作り変えたのに?」



(こういうところ、ククは容赦がない。まあ、気をつかわれるよりはいいけど)



「ククの術は、調べないといけないから仕方ないんだよ。それに、せっかく作ったんだから、少し手を加えて飾りにした方がいいでしょ」



 シシが飾りにした物をククに見せれば、ククの瞳が輝き、尻尾をブンブンと振って、飾りから目を離さない。

 そんなククの様子に、シシは微笑んで見守り、ククが満足するまで待ち続けた。



「シシ、あのさ……」



 ククは満足したのか、飾りから目を離して自分が作った二つの指輪を握り、なにか言いづらそうに、シシから目を逸らす。



「なんでも言って。ククが言えるまで、ちゃんと待つから」



「あ……うっ、うぅ」



 ククは葛藤している様子だが、そんなククも愛おしいと言わんばかりに、シシは机に肘をつき、ひとりで葛藤しているククを眺める。

 そして、決意したようにククはシシと目を合わせた。

 それに合わせて、シシがククに微笑みかけると、ククの顔は赤く染まり、可愛らしく尻尾を揺らしてフワリと笑った。



(うっ……俺のツガイが可愛すぎる)



 お互い、好きな相手の笑みには弱いようだ。


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