第16話 初めての創造



 ククが漸く創造する練習に入る頃、シシは既に二人分の服を作り終えていて、今は飾りを作っている。

 シシはデザインに悩んでいて、練習しているククがおとなしいのをいい事に、尻尾や頭や首や足、手以外のものを何種類も作っては、ククに付けていく。



(うっ……重い。尻尾が重い)



「んー……尻尾はやっぱり、服で隠そうか。少しヒラヒラにさせて、服に飾り物をつける?」



(指輪、指輪、指輪……)



「けど、可愛いククの尻尾を隠すのはもったいないな。かと言って、見せるのももったいない」



(せめてきんの塊……金の塊、金の塊)



 ブツブツと喋っているシシをそのままに、ククは目を瞑って尻尾にも力を入れ、強くイメージをする。

 指が自然と動くようになったため、神力も指の動きに任せて放出すると、コトッという音が聞こえて目を開けた。

 すると、足の間に小さな金の塊が落ちていて、ほんの少し真ん中に穴が空いていたのだ。



「シシ!見て見て!出たー!」



 ククは何も気にせずに、尻尾を振って振り向き、シシに金の塊を見せると、シシは赤くなった頬に手を当てていた。

 僅かに「イテッ」という声も聞こえた気がしたが、ククは自分の興奮した声にかき消されて気づいていない。



「本当だ!凄いね、しっかり金の塊で出て……ん?」



 シシはククの手のひらにある金の塊を手に取ると、真剣な表情でじっくりと見る。



(そんなに見て、どうしたんだろう。何か間違ってた?)



「クク、これ本当に凄いよ。術で作ってるのに、魔法が付与されてる」



「ん?それって凄い事なの?」



「凄い事だよ!魔法って、そもそも神の力を人々にあげたものでね。魔力は神々からの借り物なんだ。例えば、火属性の魔法を使う者は、産まれる時に炎神えんしんから魔力を借りている」



(ん?んー……難しい)



 ククが首を傾げると、シシはククを書庫へ連れて行く。

 そして魔法の本を取り出して、属性のページを開いた。

 ククは文字と絵も一緒にあった方が覚えが早いと、シシはこの数日で気づいたのだ。

 そのため、ククが少しでも理解できていないと感じれば、こうして書庫へ連れてくるようになった。



「産まれる時の願いによって、魔力量や属性も変わるんだけど、結局のところ魔法は借り物になる。そして魔法は術とは違って、属性に合う魔力を保持してるのが条件なんだよ」



「じゃあ、これには魔力があるの?」



「うん、そこが凄いって言った理由でもあるんだけど、なんと魔力はないんだよ」



(ないのか。ないなら術でもいいんじゃないの?なんで魔法って分かるんだろう)



 魔法と術の区別を、あまり理解していないククは、何が凄いのか分からず首を傾げる。

 実際、神々のなかでも、魔法と術は同じようなものと思っている神も多く、ククの作った金に対しても凄いと言って興奮する者は、あまりいないだろう。



「ククは凄い事をしたんだよ。術と魔法は別物なのに、魔力も無しに魔法を使える。まあ、付与されてるのは、困っている時に最低限の金が出る魔法だけど」



「御守りみたいなもの?」



 ククは、流底で流行っていた御守りという物を、家族が部屋に来るたびに貰って集めていた。

 実際にはなんの効果もない物だったが、ククは信じていたのだ。

 良い事がおきる御守りであれば、家族や友が部屋に来るだけで、良い事がおきたと信じ、大怪我をしない御守りであれば、生きているのだから大怪我ではないと信じて、ただひたすらポジティブに、御守りを集めていた。



「あー……アレか。うん、確かにククのこれは御守りだね。実際に効果もある」



「ッ!僕、シシにも御守り作る!どうやったらできる?」



「それは分からない。俺には作れないものだし、他の神々でも無理じゃないかな。魔力も無しに、魔法を使えるなんてありえないからね。術なら別だけど、術は印を結んで神力を使う必要がある。なんの対価も無しに使える物なんて、この世にはないんだよ」



 そこで、シシが凄いと言う理由が、ククにはなんとなく分かってしまった。

 ククの神力を使って作り出した物は、対価もなく誰でも使えてしまう。

 それは使用者にとっては、得でしかないのだ。



「……運命のオメガみたい」



(あ、でも運命のオメガは不快にさせるから、それに耐えなきゃいけない対価があるのか。それに、ツガイになって子づくりはできても、僕は愛されなかったら離れると思う)



「そうだね。俺にとっては御守りもククもいい事ばかりだよ。だから、俺はククに全部をあげる。でもね、その御守りは俺にだけ作ってほしいかな」



「どうして?シシの眷属達にも作ってあげたい」



「神々のなかでも、魔法は便利で使いたいと思ってる者も多いんだよ。神術であれば、印を結ぶ必要があって、眷術であれば詠唱、妖術であれば妖気が多い場所という縛りがある」



 術は基本的に発動するまでに時間がかかるが、魔法はすぐに発動でき、場所の縛りもない。

 そのため、属性と魔力量という枷をつけたのだと言う。

 だが、ククの作った物は、ククの作り方次第で無限に魔法を使用できてしまうという、悪用されれば大惨事になるような代物だった。



「たぶん、これはククがやろうと思えば、なんでも付与できると思う。神術で作った物だから、なんでも付与できて当然な気がするからね。これだって、指輪の他に何かイメージしたでしょ」



「指輪の他……あっ、せめて金の塊だけでもと思った。そしたら出た」



「その、せめて、っていう気持ちが、困ってる時に最低限っていう条件を付けたんだと思うよ」



「ほえぇ……なるほど」



 情けない声が出てしまったククは、自分のことであるにも関わらず、いまいち分かっていないからか、それ以上は魔法の付与について気にしなかった。




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