第15話 神術



 魂の色について聞いたククは、自分が藍色であるということは、新婚旅行で藍色の揃いの服はどうなのだと思っていた。

 シシは赤色であるのに、藍色をベースにしてしまう事と、花模様に黒竜の黒と眷属の白を入れるのはどうなのだろうと、考えてしまう。



「――そういうわけで、ククは神術を使える。それに俺のツガイだからね」



「シシ……新婚旅行は藍色と赤色がいい。黒と白はいらない」



「……え?しんこん……ん?」



(聞こえなかったのかな。ちゃんと言ったのに……それとも、シシは黒と白も使いたいの?でも、僕は反対だ!これだけはちゃんと伝えないと)



「だから、新婚旅行と結婚式は、僕とシシの色がいいって言ったんだ!今度はちゃんと聞こえた?天界で新婚旅行と結婚式をするなら、僕だって他の色は入れたくない。でも、僕の色だけが目立つのは、なんか違う。こ、これは……僕とシシの結婚でしょ?」



 ククが話してもいない結婚について、当たり前のように話し始め、更に今は術について教えてほしいと言ってきたククが、よく分からない事を突然言っているのだから、シシが混乱するのも無理はない。

 だが、シシはすぐに考えるのを諦めたように、ククが望んでいるのなら、天界へ行く目的が結婚式と新婚旅行になっても良いではないかと、納得してしまった。

 むしろシシにとっては好都合だと言わんばかりに、シシは満面の笑みでククを抱きしめる。



「そうだね!じゃあ、天界に行く時は藍色と赤色で、少し豪華な服を作ろうか。それとも、術を使いたいなら、ククも一緒に作ってみる?」



「いいの?僕が手を出してもいいなら……一緒に作りたい」



「いいよ、一緒に作ろう」



(これで術も教えてもらえて、服も作れる!)



 術の話に戻ったところで、ククとシシは再び歩きだし、初めての外出デートは無事に終わった。



 それからは、少しの時間だろうと二人で外出するようになり、ククはその度に派手になりすぎないよう着飾って、シシの好みをさぐっていた。

 その結果、シシは花が好きである事と、赤色は服ではなく飾りにするのを好む事、特にククが動く度にシャラシャラと音の鳴る飾りを好み、シシが自らつけてほしいと頼んできた足飾りといった、飾り物が好きなのだと分かった。



 そして今、ククはシシから術を教えてもらい、練習しながらシシが作る服を見ていた。

 ククは二人分の指輪を作る担当であり、できあがればバングルと指輪を繋ぐ飾りを作り、それもできればバングルを作る予定だ。

 しかし、なかなか上手くいかず、休憩中にシシの術を眺めていたククは、指の動きを真似てみるが、同時に体内にある神力を扱う事が難しく、無い物をイメージし創造するという段階にたどり着けないでいた。



(難しい。シシはデザインに悩む余裕まであるのに、僕は金の塊すら出せない)



 シシは冥界を維持させる事にも神術を使っているが、循環に必要なジオラマを常に更新し続けている。

 魂を循環するにあたり、現状とジオラマの違いが出てしまえば、正しく魂を案内する事ができなくなるのだと言う。

 そのため、ジオラマと現実を繋げる事は難しく、特に循環する時は集中力が必要なのだ。

 ククはその難しさを、自分が経験する事によって漸く理解する事ができ、シシもそんなククの様子を見て思うところがあったのか、ククを可愛がるだけでなく、ククにはいろいろと経験させるようになっていた。



「シシ、神力が上手く動かない」



「ここのいんの結び方が少し違うからかな。ゆっくりでいいからやってごらん」



(ぐぅッ……難しい)



 なかなかスムーズに動かない指に集中するククは、シシに手伝ってもらいながら指を動かすが、その状態を保つ事が大変だった。

 それでも、新しい事に挑戦しようとするククに、シシは諦めろとも言わずに付き合う。

 相手に付き合う事が、どれだけ大変な事であるか、ククは閉じ込められていた時に身を持って知っていたため、指輪くらいは作れるようになりたいと思っていた。



「そうそう、上手だよ。そこから少しずつ力を抜きながら動かす」

 


「むむむ……できた!これ、次の印?」



「そうだよ。よく覚えてたね」



「さっきシシのを見てたから……でも、全然覚えられない。思い出そうとすると、指も動かなくなって、神力も動かなくなる」



「覚えるのは、体で覚えるんだよ。脳はあくまで、イメージする事に集中するんだ。だから、覚えようとして覚えなくていい。まずは、指を動かし続ける事が大事だよ」



 神術は、無から生み出すのだから、難しくて当然なのだが、この数日間は上手くできない自分に苛立つ事もあった。

 それでも、シシは怒る事なく見守り、ククが何に対して苛立ち、術に対してどのように感じているのかを、クク自身に体験させていた。

 そして今のククは苛立つ事もなくなり、できない自分を責めるのではなく、とにかく練習を続けていく事に意識を向け始めているのだ。



(動かし続ける……常に動かしてればいいのかな?シシの循環中は、暇だからやってもいいよね?他の時にも、指なら動かせるんだし、練習の時間じゃなくても動かすくらいはしたらいいんだ!)



 それからのククは、空いている時間があれば指を動かした。

 シシの動きや本を見ながら練習していくうちに、動きは遅くとも指が勝手に動くようになり、神力も指の動きに合わせて動くようになっていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る