第13話 かみ合わない二人
初めて、シシに外へのデートに誘われたククは、シシを自分の部屋から追い出し、ククが一番仲良しだと思っている白馬と白イルカを呼んだ。
「急に呼び出してごめんね。これから、その……シシと、デートなんだ。だから、ふ……服、どれがいいかな」
ククが手を合わせ、モジモジと恥ずかしそうにしながらも無表情で相談すると、白馬と白イルカは二人で話し合うように、並べられた服を見ていく。
白イルカは空中を泳ぎ、白馬は部屋のものを荒らさないよう、あまり動かないようにしている。
ククの為に二人とも真剣に決め、そこへ他の眷属達も集まり、急にククを飾り始めた。
耳飾りや首飾り、それから髪飾りに花を使ったりと、楽しそうにククの準備をしていき、白馬と白イルカが決めた和服を着付けていく。
「クク、まだ?俺と白狼だけ入れさせてもらえないんだけど」
「今行く!みんな、ありがとう」
ククは恐る恐る扉を開け、まずは顔だけを出してみた。
すると、シシは驚いた様子で目を丸くし、その後すぐに口元を手で押さえ、シシの顔が徐々に赤くなっていく。
(シシ……嬉しいのかな。怒ってはなさそう)
ククはゆっくりと扉を開け、部屋から一歩出ようとした。
だがその瞬間、シシによって腰が反れるほど強く抱きしめられ、シシは嬉しそうに「ハハッ」と笑った。
「クク、その格好ってもしかして俺の為に?」
「うん、そうだよ。シシと初めての……その……デ、デートだから」
ククはいっきに頬を赤く染めて尻尾を揺らす。
そんなククの顔を両手で包むシシは、ククの顔中に口づけをしていく。
そして、顔を上に向けられ固定されているククは尻尾をブンブン振り、目を閉じて少し微笑みながら、されるがままになっている。
(ふふっ、シシに喜んでもらえた!)
「クク、可愛くて綺麗だよ。ありがとう」
「シシもありがとう。この服も全部、シシから貰ったものだから」
「その服……少し大きいでしょ。俺が一番最初に作った服なんだよ。妄想で作った」
衝撃の事実に、ククの尻尾はピタリと止まり、シシの体を少し押し返す。
だが、シシはククの腰を引き寄せて歩きだし、龍の尻尾を出してククの尻尾に絡めたのだ。
(シシが服を作った?まさか、全部シシのお手製?妄想って言ってたけど、いくつの僕を見て妄想してたんだか……うん、考えたくない)
「やっぱり、ククには藍色が合うね。今度、新しい服を作ろうか」
「今度?たまに増えてたりするけど、それってシシが作ったんじゃないの?」
「作ってるよ。でも、藍色はその服だけだからね。それに、天界に行く時に着るものも用意しないといけない」
天界に行くと聞いたククは、驚きすぎて足が止まったが、優しく微笑むシシに抱えられ、シシの話が続く。
「前に、創造神が来たでしょ?その時に言われたんだよ。俺のツガイを紹介したらどうだってね。けど、俺がククを見せびらかすと思う?その時の俺は当然断ったよ。でも、今なら有りかなって思う。俺はもう、クク以外に分け与える愛はないからね」
(……どういう事?これから初めての外出デートなのに、また次の……ハッ、もしかしてこれって、新婚旅行ってやつなんじゃ――)
「俺がその気になれば、全てを焼き尽くせる。でも、それをしなかったのは、誰もそれを望んでないからだ。今まで守るべき存在がいなかったからだ。でも、今は違う。俺にはククがいるし、ククとの平穏を奪われない為に循環だってしてる。本当なら、もう循環だってしなくていいんだよ。俺の全てはククにあげたんだから。循環も誰かに任せたっていい」
ククは、それと新婚旅行になんの関係があるのかと、首を傾げてシシを見上げる。
いまだに神界に行く約束は、新婚旅行だと思っており、宮殿の中を一緒に散歩するというだけでデートだと思っていたククは、これまでと変わらず思い込みが激しかった。
そして、その思い込みに気づいていないシシは、ククに重すぎる愛を伝えている最中だ。
「あぁ、そうか。循環を任せる為に天界に行ってもいいね。俺にはククしかいないって証明にもなる」
(なるほど……確かに、僕達は結婚式はしてないもんね。結婚式と新婚旅行を一緒にするのか。だったら、新しい服も必要だ)
「天界に行く時は、やっぱりお揃いにするの?」
「ッ!それはいい考えだね!同じ藍色の服に、黒と白と赤の花模様を入れよう」
(花はお祝い事にピッタリだ!)
どうしても話がかみ合わない二人は、こうして長い時間を過ごしてきたために、前回のようなすれ違いがあった。
だが、今回はシシの愛という名の
むしろ、シシが恥も捨てて全てを伝え、自分を隠す事なくククに見せているため、ククが今までよりも更にポジティブな思い込みをする事になっている。
この事は、シシは勿論だがクク自身も知らず、唯一話がかみ合っていない事に気づきそうなククは、これからの外出デートと、新婚旅行のことしか考えていなかった。
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