風の音はなぜ怖ろしいのだろう。

 時折それが鬼哭啾啾の声にさえ聞こえるのは。


 その風は様々な国の声で鳴く、木々をも薙ぎ倒す声で鳴く。

 自然はありとあらゆる感情を示すという。

 しかしこの風は悲嘆だけを絶え間なく鳴らす。

 雨打つ音はこんなにも快いというのに。


 この風は怖ろしい。

 それは悔恨と尽きぬ悲しみを人々の胸に吹き込み、冷たい霊気は夜を充たす。


 この風は怖ろしい。

 それは思念の放射であって交信ではないからだ。

 この風はおそらく、死者の国から吹いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る