希求


 己のものとして言葉を消費するなら、

 それはたちまち尽きてしまうだろう。

 何かに言葉を与えるなら、

 また多くの言葉を得るだろう。


 花に、空に、木々のざわめきに、轟く雷鳴に、

 いにしえ人がそれらに意味を与えた時、

 またそれらを怖れた時、人々は言葉を作った。

 浅はかにも、それらの事象が自分達の理解のうちにあると思いたかった。


 表現とは理解ではない。

 まだそうしたことすら分からない時代だった。

 だが畏怖と敬服の念を持っていた。

 理解の及ばぬものを知ろうとはしなかった。


 それは冒涜であったからだ。

 だから人々はより多くの言葉を用いた。

 より深く怖れるために、より深く愛するために、

 人々はさらに多くの言葉を求めた。


 私もまた言葉を求めている。

 たった一つ、それさえあればいいのだが。

 幾つもの夜を捧げて、今尚も探し求めている。

 あなたのための言葉を、私に求めている。

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