60枚の相棒と共に

@syagasyaga

プロローグ 再会

目覚ましが鳴り響く。

まだベッドからはなかなか抜け出せない季節というのもあって目覚ましを止めることが出来ない。

そうこうしているうちに30分が経ってしまった。

「……うるさ。」

自らが設定した目覚ましに悪態をつきつつ止めようやくベッドから出る決意をした。

今日から冬休みで年末年始は実家に帰る予定だ。

バイトも昨日で納めたしあとは帰るだけ━━━━。

「かえる……?」

そうだった、実家に帰省するんだったこんな時間になるまで起きてこなかったら一緒に帰るあいつが起こしにきてしま━━━━

“ピンポーン”

準備のひとつも終えていないのに奴は来てしまった、まだ寝てても起きるまでインターホンを鳴らすだろうけど。

「はいはい開いてますよ」

寝起きの声で答えると玄関が開く音がした。

「鍵掛けてないなんて不用心じゃない?」

「俺の部屋に泥棒なんて来やしねーよ」

こんなワンルームの男子大学生の部屋に泥棒なんて来てたまるか、俺なら入らない。

「あんたねぇ…今のご時世は何があるか分からないんだからね?少しは身を守ることを覚えた方がいいよ」

「へいへい」

適当な返事をし帰省の準備を進める。

ちなみにこいつは俺の従姉妹の葉月 愛海(はづき まなみ) なんでか高校も大学も学部もサークルも同じ。偶然にしては出来すぎか?

そういえば俺の名前もまだだったな。俺は五十嵐 勇気(いがらし ゆうき) ただのしがない大学生である。

そんなこんなで帰省の準備を終え2人で地元に帰るのであった。

といっても、電車で4時間圏内なので帰省感はあまりない。ちょっとした旅行気分だ。

実家の最寄り駅に着いた。久しぶりのこの空気が俺は好きだ。田舎過ぎず、都会過ぎずなこの空気が。

「じゃあまた集まりでね」

「おう」

軽い挨拶で別れ実家に帰った。

「……ただいま。」

「あらおかえり意外と早かったのね」

「まあ愛海がいるしな」

「まなみちゃんも一緒だったのぉ?寄ってくれれば良かったのに!」

「どうせ親戚の集まりで会うから良いだろ。…とりあえず部屋行くから」

会話を発展させるのが苦手な俺にはこれ以上居心地が悪くならないように早々に切り上げ自分の部屋に向かった。

久しぶりの自分の部屋は少し広く感じた。

━━━━━━━いや。

…いや、広い。俺のベッドが無い。

それどころか俺の勉強机も無くなってる。

確かにいらない物だけど……少しは懐かしむ心をだな━━━━

と心の中で説教染みたことを誰に言うわけでもなく並べていると

「にいちゃん帰ってきてたの」

「おっ、よし!また背伸びた?」

「いや変わってねえよ」

こいつは善也(よしや)、俺の弟で今高校1年生だ。俺とは違ってそこそこいい高校に入学したらしい。羨ましい。

「ていうか俺のベッドとかはなんで無いの」

「なんか母さん達が物置にしたいからとか言ってた気がする」

「ガチか」

俺の部屋誰も使わないからと物置になるのか。物置になったら俺は帰省する度物置で寝ないといけないのか?嫌すぎる。

でも、年末だし大掃除も込めてってことなんだろうな。

「にいちゃん、母さんが部屋の掃除しといてーって言ってたよ」

「俺がすんのかよ…」

まあ当たり前か。俺の部屋だし、元だけど。

このよく分かんないおもちゃBOXとかずっと残してたの何でなんだろ絶対要らない物しかないよなとりあえずこれから捨てるか。まあでも中身をちょっとだけ見て懐かしんでから捨てても良いよな?

どこで買ったか分からない謎のおもちゃBOXを開けてみるとそこにはポケモンカードがたくさん入っていた。

「うっわ、なっつ」

「にいちゃんなにそれ!」

「ポケモンカードだよ。うわ〜懐かし!小学生の時やってたなぁ…」

「ふーん昔のポケモンカードってこんな感じだったんだ〜」

「昔のって今の知ってんの?」

「俺やってないから全然分かんないけど最近色々話題になってるじゃん?それに大地たちやってるらしいからたまに話聞くんだよね」

「えっ大地達やってんの?初耳なんだけど…」

愛海には弟達がいる。その子たちがポケモンカードをやっているらしい、一度も聞いたことがないが。

「大地たち今日遊びに来るしポケモンカード教えてもらえば〜?」

「ばかやるかよ」

懐かしいポケモンカードたちをしばらく眺め箱にしまったあと従兄弟がカードやってるなら渡せて処分出来るから一石二鳥だなと思い元の場所に戻した。

そして、夜。親戚がうちに集まった。

「勇気のことだからまた寝てるのかと思った」

「俺ってそんなイメージなのかよ」

「勇気にいちゃんはおねぼーさんなの?」

『勇気にーちゃんはおねぼーさんなの?』

「俺はお寝坊さんじゃないよ」

愛海のせいで変なイメージをこの可愛い可愛い双子のいとこの朝陽(あさひ)と夜陽(よな)に植え付けられるところだった。

「そういえば大地ポケモンカード…?やってるんだって?」

「……う、うん。や、やってる……」

大地(だいち)は少し引っ込み思案なところがあるけど優しくて賢いやつ結構俺のお気に入りの従兄弟だというか愛海以外はお気に入りだな。

「今日部屋の掃除してたら出てきてさやってるならあげるよ」

「……えっ、で、でも……」

「なんだ勇気、ポケモンカードやらないのか?」

少し恰幅の良いこのおじさんは俺の叔父、葉月 陽介(はづき ようすけ)さん。

「俺には向いてないかなーって…はは」

「そんなことないだろ!最近朝陽も始めたんだよな!」

「うん!勇気にいちゃんも、やろ!」

くっ、朝陽に頼まれたら断りづらいだろ…!

「そ、そこまで言うならや、やろうかな〜?でもルールとかイマイチ覚えてないし…」

「それなら、明日良いところに連れてってやる!今日は何のカード持ってるかだけみんなで見てやろう」

「えっ、いいんすか!やったー…」

どこに連れてって貰えるのか分からないけどきっといいところだ。でもカードやるつもりは無かったからちょっと複雑だ。

「勇気ホントにやるの?」

「まあ趣味のない俺に新しい風を吹かせてくれるかもしれないし?」

「何それダッサ」

渾身のボケをマジレスで返されて俺の心は傷付いた。

みんなで談笑しながらご飯を食べたあと俺の部屋で何のカードがあるのかを見ることにした。

「今ってこれ使えんの?ブラックキュレムEX」

「……つ、つかえない…」

「えっ。じゃ、じゃあこれは?ボルトロスEX」

「そ、それも…」

「昔のカードは基本使えないな!」

「まじかよ……」

また遊べる懐かしさと嬉しさが入り交じっていたこの状況が一転、とても悲しくなってしまった。俺の愛用してたブラックキュレムEXとランドロスEX…

「で、でも使える戦い方とかも……ある…」

「そうなのか!?」

「あるにはある、がまずはメジャーな戦い方を学んでから!だな。とりあえず、使えるカードは無いということにして明日は手ぶらで良いぞ」

「えっ、カードするのに手ぶらでいいの?」

「あぁ、もちろん」

わけも分からずだったが明日になればわかるかとその日はポケモンカードを懐かしんで終わってしまった。ただ、今日懐かしいポケモンカードとの再会がなければ今後の俺のポケモンカード人生に出逢うことすら無かったと今となっては思う。そしてこれが俺の新しい物語の幕開けだという事も今の俺は知る由もない。

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