トイレから異世界へ

滝川 海老郎

本編 590文字

 我が家のトイレは十年以上前に洋式に改造された。


 そのトイレに用をしてレバーを引くと、排泄物が渦になった水と一緒に飲みこまれていく。


 まるで異世界に吸い込まれていくようだ。

 そう、あの先は異世界で、彼らはこの世界からあちらの世界へ旅立っていったのだ。


 現実には下水管を通り、道路の下の下水道につながっている。

 現実といいつつ、そこはさながらダンジョンの様に入り組んでつながっていて、そして最終目的地、下水処理場に到達する。

 下水処理場がボス部屋ということだな。



 疲れた日々から解放されたくて、俺も、排泄物みたいに、この世界から排除されて、異世界へ旅立ってみたい。

 約3メートルくらいの便器だったら、俺を飲み込んで、異世界へ連れて行ってくれるだろうか。

 そんな異世界ゲートみたいな巨大便器なんて、どこにあるだろうか。



 毎日、トイレを見て、異世界ゲートだな、とこれを読んだ人が思うようになるだろうか。

 俺は毎日、そう思っている。いや、今日から思うだろう。

 異世界へのあこがれは強いが、それを実現した人を、誰も知らない。

 行ってはみたいけど、実現可能性はないに等しい。

 ましてやトイレに流されて転生したという話は、寡聞に聞いたことが無い。

 異世界ゲートはこんなに身近にあるのに、なんと寂しいことだろうか。

 この世界が、もっと希望にあふれた、そんな世界だったら、楽しいだろうな、と思う。


 今日も、そうして、トイレで異世界を思う。

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