第6話

 春日の声に先程まで喋っていた男子二人も静かになっていた。


 「能力って言うのはね、この世界に来た皆に与えられてるものなんだよ! 能力はこっちの世界に来る原因になったものが付与されていることが多いんだ! でもすぐに能力を扱えるようになるわけじゃないから、その能力と類似した神が守護神として付いて、能力の制御と記憶の想起が出来るまで守ってくれるの!」

 「例えば加藤の守護神はレアーだから、大地系統の能力だな! ただ、まだ記憶の想起が無いから完全に操ることは難しいぞ!」


 松岡は後ろのレアーを見て加藤にそう伝えた。話を聞いていた加藤は二人の口から出てきたあるワードが気になって仕方がなかった。


 「記憶の想起って何だ?」

 「二人とも今不完全な記憶でしょ? 元の世界のこと、全部覚えてる訳じゃないよね?」

 「覚えてるよ? 加藤とはクラスメイトで……」

 「違う! 自分が此処に来る直前の出来事のこと、ちゃんと覚えてる?」

 「知らない間に此処に来てた。それ以外に理由なんてあるのか」


 春日は松岡と南雲と顔を見合わせて、少し決意したように口を開いた。


 「あるんだよ。だって、君たちは……」

 「春~、今日当番じゃね?」

 「あー! もう、梅ちゃん!! 今せっかくカッコいい感じだったのに!!」

 「あーし何かお邪魔だった? ごめんごめん~」


 梅田に呼ばれた春日は急いで体操服を持った。


 「ごめん! 能力については訓練所に着いたら教えるね! 体操服持って……ないならそのまま来たら大丈夫だから!」


 勢いよく扉を開け放ち、廊下には早い足音が響き渡った。


 「お二人さん、訓練所分かんないよね? 案内するから着いてきてくれる?」

 「わぁ……常識人だぁ……。加藤です、末長くよろしく」

 「あ、あぁ……よろしく。秋山だ。呼び捨てで構わないよ」


 加藤にとって秋山は第一印象がとても良い友人になった。加藤自身常識人であるが故に、常識がある人は大抵好感度が高いのだ。大人しく二人は秋山と、仲が良いらしい松岡と南雲に連れられ指定の場所までやって来た。

 それぞれ更衣室に入り説明を受けながら訓練所に入る。そして、時間が来るまでは雑談で暇を潰していた。チャイムが鳴り響く。同時に女性教師も訓練所へ到着する。


 「それでは今から能力基礎の授業を始める。私は三年担任の岬だ、よろしく。君たちのことは名簿を見て覚えたから安心してくれ」


 そう簡潔に告げると、彼女は不思議そうに加藤と佐藤、それから他二人の女子生徒を見た。

そして、何かに気づくと岬は四人を鋭い眼差しで見つめる。


 「想起前か、君たち……」

 「結局、それ何なんですか。俺達はちゃんと記憶ありますよ。元の世界でどうやって生きてきたかってことくらい。それに、能力とどう関係あるんですか」


 はぁ……と溜め息をついた岬は言いずらそうに少しだけ目線を逸らして言う。


 「君たち、死んでるよ。此処に来る奴は全員ひっどい死に方しかしてないからね。それも思い出せないなんて、可哀想に」

 「は?」


 辛うじて加藤だけは対抗するように声を発した。ただ、他三人は呆然としていた。


 「死んだ時の記憶と、苦しいときの記憶無いだろ? 幸せな記憶しか残してないだよ」

 「な、なんでそんなこと!!」

 「神じゃないから詳しくは知らない。じゃあ、時間なくなるから想起してるやつだけ対応するぞ」


 早速とでも言うようにそれぞれの能力と現在の操作感度を確認するためまず一人、東郷の名前が呼ばれた。


 「俺が一番か? 先生、そんなに俺に惹かれてしまったのか! 全く俺も罪な男だ……」


 この学年で一番始めにこの世界へ来た生徒こそ東郷であった。戸惑っている者、放心状態の者を放って彼は目の前の創造された人形に集中している。


 ナルシスト代表、東郷。

 死因:圧迫死による能力:重力操作。


 「次は俺様か。まぁ、雑魚どもよりは扱えるがな」

 「アイツって何であんな上から目線なの? 初対面でも喧嘩売ってくるしさぁ」


 説明されることを諦めた加藤は恨めしそうに彼を見つめた。

 俺様見下し代表、西園。

 死因:過労死による能力:エナジートレイン。


 「お手本のように倒してみせます。私は次期委員長ですから!」

 委員長志望のポンコツ、南雲。

 死因:病死による能力:身体強化。


 「わ、わたし……できないです……」

 人見知りなネガティブ、北条。

 死因:薬殺による能力:薬物。


 「次はわたしでいいんだよね! よーし! 頑張るぞー!」

 元気が取り柄のハイテンション、春日。

 死因:轢死による能力:幸運体質。


 「ふわぁ……まだ夜だよぉ……」

 睡眠第一無気力、夏目。

 死因:凍死による能力:冷氷操作。


 「とりあえず時間ないからさっさとやりますね」

 制御担当の常識人、秋山。

 死因:暴行による能力:体術強化。


 「特に楽しくもない高校生活の予感がして凄ぇダルいんだけど」

 ツンデレのツン多め毒舌な女、冬月。

 死因:溺死による能力:冷水操作。


 「俺の出せる力全部出してやるぜ!」

 熱血で純粋な子、松岡。

 死因:窒息死による能力:酸素管理。


 「よし、俺は誰にも負けない。俺は強いぞ、大丈夫。頑張れ、俺」

 負けず嫌いなおバカ、竹内。

 死因:刺殺による能力:剣術操術。


 「あーし、今日爪どっかで落としたかも~。見つけたら教えて~」

 唯一のギャル、梅田。

 死因:毒殺による能力:毒操作。


 今居る、能力持ちの生徒の能力及び感度確認が終了した。かなり個性的な性格な人達だと思ったことは心にしまっておくことにした加藤。

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