第5話

 「俺は田崎。お前らの担任だ。お前らは一年だから本当は転校生とかないんだが……此処は変わってるからな。中学校も高校も全く同じ面子だ、だから転校生という形で紹介する」

 「混ざってればいいじゃないですか」

 「こっちにも色々あんだよ。今はそれで納得しとけ」


 口を挟んだ加藤を一言で黙らせると彼は二人にカードのような物を渡した。

 

 「それとこれ。お前ら今日は送ってもらっただろうが、明日からは交通機関で通学だ。これがありゃあ、どこでも無料で乗れる。言わば定期だ」

 「無料……加藤、ここ何でも無料だね。節約できる、へへっ……」

 「気持ち悪い笑い方をやめろ。そういえばお前はケチだったな」

 「はぁ? 喧嘩売ってんの? 節約家って言ってくれない?」


 二人のやり取りを見ていた田崎は不思議そうに問いかけた。


 「お前ら、前からの知り合いか?」

 「クラスメイトです」

 「不本意ですがね」

 「加藤? アンタぶっ飛ばすわよ?」


 仲睦まじげな様子は初めてだと思いながら田崎は名簿を持って席を立った。立ち止まっている二人に背を向けながら声をかける。


 「置いてくぞ。早く来い」

 「暴君だ、あの教師」

 「加藤しっ! 聞こえるから」

 「お前の声でもうバレてんだよ、佐藤」


 名前を呼ばれた佐藤は田崎から目を背けて歩き続ける。扉を開く担任の後ろをそのまま着いて行けば、何故お前も来るんだという目で廊下に出された加藤。


 「おはよう。今日は転校生……と言っても高校から一緒に学ぶ生徒が来ている」

 「さっきの子でしょー? 何か後ろ付いてきてたやついたじゃんね」

 「あの間抜け面は何も考えていなかったんだろ。バカらしい」

 「オイ、アイツ殺っていいか?」

 「落ち着くのじゃ、加藤よ!」


 廊下の前で待機している加藤達にも仲にいる生徒の声くらいは届く。初対面でバカにされた加藤は苛つきを抑えきれていなかった。


 「そんなことを言うな、西園。ほら、俺を見て心を落ち着かせるんだ!」

 「東郷邪魔よ、退けてくれるかしら」


 騒がしい教室に痺れを切らした田崎から適当な合図が告げられた。そのまま二人と守護神たちが教室へ入るとその場は一瞬静かになった。


 「自己紹介しろ」

 「加藤貴志です。こっちは守護神のレアー。さっきバカって言ったやつとは後で喧嘩します」

 「佐藤志羅です。これが守護神のヒュプノス。喧嘩には私も加勢します」

 「物騒な事ばかり言うな。喧嘩は俺が怒られるから隠れてやってくれ。じゃあ一限の準備しとけ」


 溜め息を付きながら出席簿にチェックを付けていく田崎に、眼鏡をかけた女子が手を挙げて元気よく質問した。


 「一限って……先生、能力基礎ですが、転校生は分かっているんですか!」

 「あ? あー、知らねぇっぽいな。暇な奴ら教えといてやれ」


 投げやりな態度でも答えてくれる生徒は居たらしい。今度は桃色の髪をした明るい女子が手を大きく振っていた。


 「はーい! 春日教える教える!」


 彼女はニコニコしながら二人を見つめると、おいでと言うように手招きした。


 「一ノ瀬はサボりで、中村は……休みか?」

 「多分当たったんですよ、赤貝。昨日連絡来てましたから」

 「秋山に連絡行ってんなら大丈夫だな。欠席理由、赤貝っと……」


 田崎と生徒の秋山が喋っているのを横目に二人は春日の席まで向かった。


 「どうぞ、使ってください」

 「あ、ありがとうございます……」

 「私は南雲です。次期委員長候補です。よろしくお願いします!」

 「あ、うん……」


 少し引き気味の佐藤に椅子を差し出したのは、先程の元気よく質問していた彼女南雲であった。春日とは席が前後らしい。役に立ったことに満足気な表情を浮かべていた。

 隣を見れば同様に加藤も話しかけられていた。


 「お前、喧嘩本当にすんのか! 熱い男だな、尊敬するぜ! あっ、俺松岡! よろしく!」

 「俺は熱くない男、加藤だ。じゃあ、椅子を借りる。ありがとう」

 「おう! そんなのいつでも使っていいんだからよ! 俺も話に参加するから色々聞いてくれ!」

 「聞かないように頑張るよ。じゃあ、向こうに行っててくれ」

 「面白いな、お前!」


 目の前の二人が全く構ってくれない状況に春日は頬を膨らませながら拗ねていた。


 「能力って何か教えてもらってもいい?」

 「うん!」


 パッと明るくなった表情に単純さを感じつつも、時間を気にした佐藤は春日に問いかけた。

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