第3話

 あれから特にすることも無かった加藤は、かなり早いが寝ようと布団に入っていた。一方、彼の部屋にある椅子に座っているレアーは本棚にあった本を手に取り読んでた。


 「レアー、結局学校っていつから始まんの?」

 「確か……4月7日じゃったかの? 今日が、4月1日だったから……」

 「レアー!!」

 「なんじゃ!?」


 突然飛び起きた加藤は今日の日付を聞いた途端、机の引き出しを開けて何かを探し出した。

加藤の探し物はすぐに見つかった。手にしていたのは、便箋だった。


 「それは、誰かに送るつもりかのう?」

 「……そう。今日は誕生日なんだ、姉さんの」

 「お主、姉が居ったのじゃな」

 「自慢の姉さんだよ。でも、渡せないのか、これは」

 「お主は姉に毎年手紙を渡しておるのか?」

 「いいや。姉さん今年結婚するから、節目として手紙を書いていたんだ。おめでとうとありがとうの気持ちを込めて」


 加藤は姉を尊敬していた。姉も弟をとても可愛がっていた。姉弟の仲はすこぶる良かったから。

 此処に、元の世界を認識してしまう物があまりに多すぎた。それ故、忘れようとしても忘れられないから辛くなってしまう。どうすることも出来ないと悟った加藤は静かに布団に戻った。


 「おやすみ、レアー」

 「……おやすみ」


 消え入りそうな声は、レアーの心に酷く響いた。

 彼が寝付いた後、レアーは神界に戻った。そこには珍しく沢山の神が揃っていた。そんな中でレアーにいち早く気付いたのは希望の女神、エルピスだった。


 「レアーじゃあないか! 久しぶりだね。君はどうして此処に居るんだい?」

 「それが……ちょっとばかし相談したいことがあってのう」


 エルピスは誰に対してもよく話しかけに行っており、友好関係が広い神であった。そのため、彼女から神界の最新情報を聞くことは多々あったのだ。特別仲が良いというわけではないが、それなりに話す関係値ではある。


 「悩み事かい? 私で良ければ聞こうではないか!」

 「エルピスよ、元世界へ贈り物などは出来たりするのじゃろうか? 例えば、手紙、とかのう……」

 「送る……伝えるとかだったら伝令神のイーリスが出来るとは思うが、物を送るというのは難しい話だね」

 「やはり、そうじゃな……」

 「否、待ちたまえ! 元世界の物を私達は操作できるわけではない。ということは、相手に見つけてもらうよう仕向ければ良いではないか!」

 「エルピスよ、それが出来ないから困っておるのじゃろ……あっちの世界へワタシもお主も行けぬではないか」

 「レアー、あの人達のこと忘れていないかい?」


 エルピスは試すようにレアーへ問いかけた。神であろうと別の世界に干渉することまでは出来ない。それを行ってしまえば規則違反として、神という名目は剥がされてしまう。ただレアーにも思い当たる人物が居たのか、気が付いたようにエルピスと目を見合わせた。


 「アステリアーとアイテールを探してくるかのう!」


 アステリアー、星座の神。

 アイテール、天空の神。

 彼等は空を管轄に置き、それぞれこの世界と元の世界を管理している神々。そして、唯一空を経由して世界を往き来出来る神。


 レアーが踏み出そうと後ろを向いた瞬間、これまで話を聞いていたかのように立ち塞がる神(もの)がいた。


 「レアー、貴女は神界が今忙しいということを分かっていないのね。可哀想に」


 煽るように呟くのは、月の女神セレーネだった。


 「セレーネ、そこを退くのじゃ」

 「貴女の探しているアステリアーとアイテールは今居ないわよ。それに、ここ二週間ですでに四人目を迎えているの。これがどういうことか分かるわよね?」

 「加藤が四人目じゃな。分かっておる」

 「だったら、そんな事をしている暇らないことくらい気付かないのかしら」

 「ま、まぁまぁ! 二人ともあまり熱くなりすぎるんじゃあないよ?」


 レアーは昔から人に肩入れしやすい性格であった。方やセレーネは基本他人の事はどうでもいい主義の神。その為、二人の反りが合わないことは多々あった。そんな二人の仲裁に入ったエルピスは申し訳なさそうにレアーへ現状を説明することにした。


 「最近は多いんだよ、此方へ来る人間達がね。それも君の主人と同い年の子達ばかりさ。その為に今偵察部隊が動いているんだ。だから、勿論説明や事実確認等もイーリスだけでは回らなくなっているから他の皆も駆り出され、守護神もギリギリなんだよ」

 「去年も酷かったけれど今年が始まって間もないのに、この人数は少々疑ってしまうわ」


 よく見ればエルピスとセレーネの目の下にはうっすらとだが隈が出来ていた。頭を抱えて呟くセレーネはイーリスの仕事を手伝っているらしい。


 「向こうの世界では何が起こっておるのじゃ……」

 「本当、何人不幸にすれば気が済むのだろうね」


 見えない向こうの世界を神々は嫌うように目を逸らした。

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