第41話 死闘の開幕
遠くに見える虚無の大樹の表皮から一つの仮面が零れた次の瞬間、その本体は幻のように姿を隠す。唯一その存在に気づけたシンスケですら感知できなくなってしまった。
「見えなくなった?」
「……シンスケくん、とりあえず急がないと! どっちにしろまずはバスターさんたちと合流しないと」
「そうだね」
学校から離れて街に駆け出すと、街で充満していた胞子の霧はますます濃くなった。
住宅区、商店街、中央通り、駅周辺のすべてのエリアが霧に浸食されて、街丸ごとが陥落したような雰囲気を漂わせる。
「みんなおかしくなっちゃってる!」
「今までの悪惑と比べ物にならないぐらいヤバイ……」
白目むいて倒れる子供たち、壁に自分の頭を何度もぶつけているサラリーマン、無抵抗の婦警の首を締め付けるホームレス、自分に火をつけるおじいちゃん。
消防と救急、そして警察のサイレンの音が一切聞こえてこない、秩序を守るための機関も結局は人間が運営している、人間である時点で虚無という原始的な欲求には抗えない。
正気を保っていられるごくわずかな市民たちは恐怖に怯えて建物内に篭った。
「急がない! 街が!」
「──カスミさんっ、待って!」
水吏駅前でシンスケは突然立ち止まってカスミを庇うように押し倒した。次の瞬間、前方の空から何かが二人の目の前のタクシー上に落下してきた。
タクシーは無惨な姿に押し潰されたが幸い運転手は乗ってなかった。二人は服に掛かったガラスの破片を払いながら落下してきたものを確認する。
「え……」
「カムイ!?」
カムイは腹部に穴が空いてるだけでなく、全身の切り傷から出血して気を失っている。単独合体を維持できなくなったのか、サンダーブリンガーは腿甲から龍の姿に戻ってカムイの体から弾かれる。
この状況が何を意味するかを即座に察したシンスケは見上げた。
ティラノサウルスに似た身長10m超えの悪惑がジェネシスに噛みついて、抵抗する彼女を咥えたまま地面に叩きつける。ジェネシスの怪力を持ってしても悪惑の口をこじ開けられない。
それでも攻撃をやめない恐竜の悪惑から姉を救うべく、ジェットはその小さな体からは想像できないほど強力な跳び蹴りで悪惑のアゴを砕く。
「ジェット、ナイス! うっ……」
なんとか抜け出せたと思いきや、恐竜の悪惑は蹴られた反動を利用して体を回転させる。やられた動作をフェイントに鋭い棘が生えた尻尾を当てて二人を纏めて吹き飛ばす。
「ジェット! ジェネシス!!」
二人を受け止める力なんてないのに、シンスケはそれでも走り出した。
「よっと……お二人、大丈夫ですか?」
遅れてやってきたコアとバスターがシンスケの前に着地して弟妹を受け止める。二人の登場に安心感を覚えるが、よく見るとバスターとコアも怪我して血を流している。
「コアさん、バスターさん……血……」
「シンスケ、気を引き締めろ……今までの悪惑なんて比べもんになんねぇ、アイツの強さは別次元だぜ……変な能力がない分単純に強いから小細工が通用しないぞ」
「……うん。ジェネシスはカムイの回復をお願い」
「わ、わかった!」
恐竜の悪惑はすでに顎の回復を終えており、地面に爪を食い込ませて前傾姿勢に入って今にも走り出そうとしている。
バスター、コア、ジェットがシンスケを囲って並ぶと、4人は自然と掛け声を息ぴったりに揃えて叫んだ。
「シンスケ兄ちゃん、飛ばすからよろしくね!」
「ああ!」
「
バスターとカムイの時とは異なって、レイジビースト形態に入ったシンスケは四足歩行に切り替えた。
コアの装甲は四足歩行の適したサポートパーツと背中のジェットブースターに、バスターの巨剣は尻尾として蛇腹剣に変形する。そして、ジェットはシンスケの頭部を鎧う狼の兜に変身した。
ジェットの影響でその姿はつい先日戦った獣の悪惑とどこか似ている。
この隙に回復してもらっているカムイは目を覚ますと、まだ全快してない状態にもかかわらず無理矢理体を起こした。
「ちょ、ちょっと! カムイさんまだケガが……」
「ゴホゴホ……」
口から大量の血を吐き出すもそれを手で乱雑に拭きながら続ける。
「ジェネシス、私はもういいです、それよりもカスミ様を守ってください」
「何言ってんの!? カムイ姉死んじゃうよ!」
「逆です。レイジビーストではあの悪惑をとめられません、パワーが足りなさすぎます……私も参戦しないと全員が死にます」
カムイの闘志に反応してそばで倒れるサンダーブリンガーも震えながら立ち上がって、衰弱し掠れた声で雄叫びを上げる。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます