第38話 新学期
9月2日、新学期の始まり。
初日は挨拶と宿題の回収の他に、もう一つ決めなければいけないことがある。
「ハイ、そういうわけで学祭の実行委員2名! やりたい人〜 まぁ、初めての学祭だからそんな堅苦しく考えずにドンドン立候補しちゃって〜」
2週間後に開催される学祭の委員決め。
担任の軽快な呼びかけとは裏腹にクラス中はシーンと静まり返った。下を向いているか、または誰かに期待する視線で見渡すかのどちらかで全くやる気を感じられない。
「は、はい! やりたい……です」
「おぉ〜 藍沢さんね……あれ、イメチェンした!?」
担任だけでなく、1学期で藍沢の陰口を言ってたグループも驚いて言葉を失う。彼らが知る藍沢の姿とかけ離れすぎて別人にしか見えない。
呼ばれて教壇前に立つとクラス中のザワザワ声が一段と大きくなって、それを不快に感じた二人が手を上げる。
「私もやりたい……あ」
「俺も立候補します……あ」
「いいね、本田さんと立花くんね。枠あと一人だから二人でジャンケンして」
良くも悪くも他人につられやすいのか、ジャンケンに勝ったカスミがチャーミングな笑顔で勝ち誇るとクラスの雰囲気は一気に明るくなった。
藍沢のそばまで近づくと、担任は決め事をまとめたプリントを二人に渡す。カスミはみんなに見えないように藍沢の背中を軽く叩いて小声で話す。
「(大丈夫だから)」
「(え)」
「……みんな! 出し物決めまーーすっ!!」
手を叩いて大声でクラスに決め事の宣言をすると、シンスケを始め彼女と仲の良いグループはみんな空気読んで盛り上げてくれた。
「私黒板に書くから、案は藍沢さんに言って〜 案出なかったら全員の一発ギャグの映像を流し続けるだけの休憩所にするから、よろしくぅ!!」
「地獄かよ」
「アハハ、逆に見てみてぇー」
「先生やって〜」
同時刻の校舎屋上、
バスターはぼんやりとフェンス越しにシンスケたちの教室を見つめる。
「なぁ、ジェット。洗脳されてた時の記憶なんか残ってるか? カムイもだ」
「私はありません。あの首の拘束具、情報が残らないように消滅する際は記憶ごと焼却するようです」
「俺も……あ、いっこだけ覚えてる!」
全員が一斉にジェットに注目する。
何度も戦っているにも関わらず、こちら側には相手の情報がほとんど残されてない。現代の住人を守るのにどれだけ情報があっても困らない。
「ディリュードがカスミ姉ちゃんたちを夢の中に引きずり込んだ時点でもう……俺たち4人分の力を超えてたよ」
「やっぱ、そうだよね……王之鎧の力を運用する悪惑を作り出せるし」
五人全員が黙ってしまった。
3人までしか合体できないシンスケでは絶対に勝てない、全員がその問題の深刻さに気づいているからだ。
人間の強い意志がない限り、王之鎧たちは変身して合体を行うことができない。つまり人間でない王之鎧のメンバー同士の合体は不可能。
「……王様が居れば──」
「そういうのはナシですよ、ジェネシス。無いものねだりをしたって何も始まらない、そうですよね」
「でも……3人だけじゃどうしてもバランス悪いじゃん! 自傷するから火力をフルにあげられないし、かと言って防御に寄せちゃうと決定打が無くなる……」
「確かに……先日のアクセラレーター形態もジェネシスが居ないので、もし加速した状態で致命傷を負った場合は回復が間に合いません」
「でしょ! ただでさえ五人揃ってないと出力が下がるのに……」
悩める弟妹たちを見て、バスターはフェンスの段差から降りてこう言った。
「できなくは無いだろ、全員合体」
元々王之鎧はグドロに合うように最適化された武装兵器。
だから現代人のシンスケと合体した時のズレで、鎧と合体者の両方の体力をある程度浪費している。
「シンスケを王之鎧の正式な継承者にする、もっかい最適化すれば負担はなくなる」
「お兄ちゃん、言ってることの意味……分かってる?」
「ああ……元々俺らは姫様と王様から抽出された擬似人格が育った何か……だから100%シンスケの意志に合わせることができない。最適化したら、俺たちは全員消える……そんで」
「シンスケさんは不朽となり、普通の人間でなくなってしまう……場合によっては重すぎる呪いになりますよ」
「悪いけど、アタシは反対だよ。確かに今じゃ全力出せないけど、それでもアタシたちは不朽のままで未来の人間を助け続ける義務がある……シンスケたちとは仲良いけど、だからと言って特別視して未来の人間から可能性を奪うつもりはないから」
カムイとジェットもなんだかんだで真面目なので、ジェネシスの意見に賛同している。今のシンスケは確かに好青年そのものなのだが、不死の力を手に入れた後もまともでいられる保証はない。
そうなった時、人間を護れる術はなくなる。
「俺も分かってるさ。だけど、もし今を守らなきゃ未来が丸ごと無くなる、そんな事態になったら俺はシンスケを信じて託したい…………なぁ、お前らだって本当はそう思ってんだろ」
声にこそ出してないが4人は全員無言で頷いた。
ここにいる全員はとっくに覚悟を決めていた、未来のために自ら礎となる覚悟を。
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