最終章・繋がる心、最後の合体

第37話 夏はもう終わる

「すごい……本当に直ってる」


 藍沢はSNSで流れてるシンスケたちの戦闘時の動画と、ジェネシスによって修復された実物の水吏川周辺を見比べた。

 映像の中では昨日シンスケのメテオインパクトでクレーターができていたはず、しかし藍沢とバスターが歩いてる土手は花火大会で歩いてる時と全く同じ。


「確かにこれじゃ目撃者が居ても証明できないもんね……知ってたけど、コレがバスターって言われても実感できないね」


 動画止めてシンスケの足が映ってるところをアップしてバスターに見せる。


「普段はこうじゃないんだぜ。もっとなんかでかくて強そうな感じの剣なんだよ」


「ハハ、全然強そうに聞こえないんですけど……まあ、とにかく本田さんたち見つかって良かったね」


「ああ、失踪した時はどうなるかと思ったぜ」


 安堵したのか、藍沢は大きく伸びをしてみせた。

 土手の中間地点の着くと、左手側には階段があってそのまま商店街に続いている。藍沢はバスターの手を引いて階段を降りていく。


「お腹空いた〜 なんか食べてこよ!」


「そうだな」


 





 本田家。


 ジェネシスはカスミが宿題をサボらないように監視をしていた。人気者の代価としてカスミの夏休み中はずっとどこかに出掛けていた。


「ねぇ〜 ジェネシススマホ返して! キョウカとウッチーに返信しないといけないんですけどー」


「だめです、宿題最優先です」


「いいから、そういうのだるいから」


「いいえ、だるくありません」


「もうーー やればいいでしょ!」


 シャーペンを握り直して面倒くさそうに数式を解き始めると、2階から寝癖ボサボサのジェットが降りてきた。

 見た目は小学生なので本田ママに色々と心配されたが、結局はその可愛さに負けて居候を許してしまった。


「あれ〜? お兄ちゃん二人は?」


「コア兄さんはバイト〜」


「そんで、バスターさんは彼女とデート」


「忙しそー 俺も外で遊んでこよっかな」


「はぁ……小学生は気楽でいいよね、宿題なくて」


「いや、ジェットくんは小学生でもないから……そういえば、「彼女」で思い出したんすけど〜」


 昨日は戦いがあってとても聞けるような雰囲気ではなかったので、ジェネシスはニヤニヤした顔で頬杖ついてカスミに気になっていたことを質問した。


「進展、どうでした?」


「何の話?」


「分かってるくせにぃ〜 シンスケとの進展に決まってんじゃん! 花火大会でチューぐらいしたでしょ?」


「うわぁ、そのテンションなに……なんか、答えたくないです」


 ジェネシスはまるで土下座でもするかのように額をテーブルにつけると、両手でカスミのスマホを丁寧に差し出した。

 彼女の宿題監視なんかよりも恋バナを選んだようだ。そんな姉に対してジェットは呆れた溜め息を吐きながら、冷蔵庫から牛乳を取り出して飲み始めた。


「こちらを上納するから、お願い致します! 教えてください!」


「元々私のスマホなんすけど」


「お姉ちゃん……哀れ」


「ジェット! ガキは黙って牛乳飲んでろ!」


「なんかお姉ちゃんみたいな大人にはなりたくないわ」


 カスミはスマホを受け取ると、手で口元を覆って隠して続けた。


「別に進展らしい進展はなかったよ。ディリュードに邪魔されてタイミング逃したっていうか……」


「でも、なんかはあったんでしょ?」


 花火大会当日に二人でベンチに座ったことを思い出すと、カスミの頬はほんの少しだけ赤く染まった。


「…………手、繋ぎましたけど?」


「はいっ、手繋ぎいただきましたーーーー!!」


「恋バナモンスター、うっさい」


「言わなきゃよかった……もぉ、宿題やるし」







 一方の立花家。


 宿題を溜め込むカスミと違って、シンスケは毎日コツコツやるタイプなので彼女のように苦しむ必要がない。

 

「シンスケ様、ただいま戻りました」


 シンスケに頼まれた用事を昼過ぎ頃に済ませたカムイは戻ってきた。誰かに見られてなくともカムイはヒールを上品に脱いてスリッパを履き替える。


「ごめんね、カムイに頼んちゃって」


「敵の捜索作戦はよく行ってましたので問題ありません。結果をご報告いたしますと、上空からでは悪惑ディリュードを発見できませんでした。おそらく、物理的な方法で隠れてないかもしれません」


「……そっか、わかった。ありがとうね」


 報告を終えると、カムイはいつものようにシンスケの真横に座ってくつろぎ始める。カムイが自宅に来てしばらく経つけど、いまだに彼女の近すぎる距離感に慣れない。


「……やっぱ、近くない?」


「申し訳ありません、暑かったんですか?」


「いや、暑さの問題じゃなくて」


「……あっ、汗くさいんですか?」


「いや、全然! ていうかカムイが汗かいてるとこ見たことないし……ごめん、俺が気にし過ぎてるだけだな」


「……?」






 時間が過ぎ、夏は終わる。

 この時の彼らはまだ知らない、虚無の大樹が────

 

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