第35話 脱出
1学期の最終日、この日の学校は午前で終了して午後からは生徒お待ちかねの夏休み。昼のチャイムが鳴るのと同時にカスミは素早く立ち上がったが、特別なにか急がないといけない理由がないことを思い出してまた座る。
「……あれ? 私、何かを待っている?」
何となく窓側にある空席を見つめる。
「…………あの席、だれの?」
教室から生徒が全員居なくなるまで空席を見つめてもその主を思い出せないので、諦めて帰ることにした。
しかし、カスミが校門から一歩出た途端、今週ずっと襲われ続けた違和感を再び感じてしまった。
このまま帰っていいのだろうか。
悩む理由なんてない、家には母親と居候のディリュードが待ってくれている。今すぐ帰ってこれから始まる夏休みの初日を楽しもう。
次の瞬間、ガラスが割れたような音に合わせて青空にも大きな亀裂が生じた。
目に映る風景のすべてから色彩が抜けてモノクロに変わっていく。
「聞こえた……立花く────シンスケくんの声!!」
擬似合体したシンスケの力が、この夢の世界を崩壊させながらカスミのいる場所まで届いた。
おかげで封印されていた記憶が戻って、カスミは現実世界のこの日のことを思い出せた。
「西三番通りで助けてもらったんだ! きっと、シンスケくんもそこに!!」
走り出す彼女にはもう迷いがない。
西三番通り。
シンスケは受け流しや弾きなどの技で獣の
現実の
「────ッァ!!」
フェイントの噛みつきを剣の柄で打ち返すと、悪惑は素早く前転して尻尾を振り下ろす。
電車並の太さを持つ尻尾を受け止めでもしたら押し潰されて肉片になってしまうので、シンスケは横にステップしながら体を捻らせることで遠心力を乗せた巨剣で尻尾を両断する。
獣の悪惑が痛がるとシンスケはそのまま顔に飛び込んで右目を容赦なく抉る。
ディリュードは遠目で戦闘を眺めていたが、獣の悪惑が劣勢に陥ったことで焦り出す。
指を鳴らしてシンスケの目の前に瞬間移動して彼の顔に右手をかざす。
「さあ、眠りなさい。私の友人のシンスケくん──」
再び洗脳をしようとするが、巨剣から発せられる光に弾かれてしまう。
シンスケも眠ることなく、ディリュードの右手を力強くガシッと掴む。
「俺はもう眠らない! 花火大会で俺たちに何をした!」
「離しなさい!」
「いいや、離すわけないだろ。この夢はお前が作ったんだろ…………だったらッ!」
ディリュードの右手を引っ張りながらその腹に巨剣を突き刺す。
「お前を倒すだけだ!!」
「このぉぉおおおおおーーーー!! 立花シンスケぇええええーーーー!!」
刺さった剣を膝で蹴って食い込ませると、ディリュードの体から亀裂が生まれた。
亀裂はブラックホールのように引力が発生して、夢の世界にあらゆるものを吸い込んでいく。獣の悪惑もシンスケとカスミも、亀裂を吸い込まれることで現実世界にいるディリュードの体から吐き出されていく。
「うぅ……」
「ただの人間の分際が……この私を拒否するというのですか?!」
カスミが目を覚ますと、目の前には自分を抱えて庇っているシンスケの姿があった。そんな彼の視線の先には巨大な獣型の悪惑と見覚えのある男が狼狽えている。
頭がぼんやりするが、周りをよく見てみるとここはもうあの夢の世界の中ではなく、花火大会で気を失った場所の付近の土手。
「シンスケ、くん?」
「無事で良かった……カスミさんは俺が守るから!」
「大口叩きますね、もう夢の中じゃないんです。君にはもう力なんて残ってませんよ!」
そう言われて手元を見ると、擬似合体の巨剣が再び光となって崩れていく。
対して獣の悪惑は現実世界でも活動できるようで、意識を取り戻すと一目散にシンスケたちに向かって駆け出す。
「鎧の合体者よ、ここで死になさい」
「俺の力が果てても、俺には────」
獣の牙があと一寸でシンスケに届くその瞬間、落雷が如く上空から太刀が獣の悪惑の鼻と顎を穿つ。その直後、バスターとコアがシンスケの背後から放った飛び蹴りで獣を吹き飛ばす。
遅れてやってきたジェネシスに合わせて、カムイも着地して太刀を回収する。
「仲間がいる!!」
「仲間……そんなものッ…………グドロと同じだというのか、鬱陶しいんですよ!!」
バスターはシンスケの肩に手をおく。
「大将、聞こえたぜ。俺を呼ぶ声」
「ああ……みんなの力を貸してくれ──
「「「モードチェンジ!!」」」
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