第34話 キミはモブなんですよ

 現実世界の花火大会の翌日。


 バスターたちは失踪したシンスケとカスミを全力で探し回っている。

 翼と雷龍で飛べるジェネシスとカムイは上空から捜索をして、バスター・コア・藍沢と本田ママは商店街付近で聞き込みを続けているが、消えた二人の消息を一向に掴めない。


「ジェネシス、生命探知の結果はどうですか?」


 コアは妹に電話をかけて進捗を確認する、その横でバスターは引き続き聞き込みを続けている。


「ダメ、見つからない……ごめんなさい! 昨日私が探知を切らなければこんなことには──」


「あなたのせいではありませんよ、俺たち全員のせいです。敵の能力を正確に思い出せない以上、シンスケさんに手を出すことも想定するべきでした……とにかく今は探すしかありません、俺たちは聞き込みを続けますから上空は頼みましたよ」









「────けくん……」


 シンスケは体を揺さぶられてぼんやりとした意識が呼び起こされる。


「シンスケくん、大丈夫ですか? ボケーっとしてましたけど……」


「あれ? ショーゴとディリュード……ごめん、寝不足だったかも。ここどこ?」


「何言ってんだよ、今日から夏休みだから午後映画見に行こうってお前が誘ってきたんじゃねーか」 


 歩きながら辺りを見回すと、シンスケはやっと3人が歩いている現在地を思い出した。映画館へ向かうために西三番通りの歩道を通っている。交通も他の通行人も普通で、反重力⬛︎⬛︎が起こってない?

 違和感とまではいかないけど、何かが喉に突っかかっているような不快感を感じる。しかし、シンスケは前を歩く親友のショーゴとディリュードの笑顔に気を取られてソレを忘れてしまう。


「ディリュードは何が見たい?」


「私は、そう〜ですね……この前公開されたSFのあれが見たいですね」


「SFのあれってなんだよ」


「あれはあれですよ」


「ハハ、全然伝わらねぇ!」


 信号を渡ろうと視線を上げると、交差点の信号機の奥にいる異物に気づく。


「あ!? あれ! 見ろよあれ!!」


 シンスケが指差し方向には高さ20m超えの巨大な狼らしき怪物がゆっくりと歩いている。獣はこれでも気を遣っているのか、車や人を踏まないように気をつけている。

 一歩進むごとに地面が揺れ動くのにシンスケ以外の誰も気づかない。ディリュードとショーゴも例外ではないようで、突然大声を上げるシンスケに困惑しきっていた。


「おい、お前街中で急に大声上げんなよ! こっちが恥ずいんだけど」


「そうですよ、どうかしたんですか?」


「見えないの!? あのい、犬? みたいなやつ!!」


「はぁ?」


 獣はシンスケの視線に気づいたようで、体をゆっくりとシンスケのいる交差点前に向いて近づいてくる。先ほどと違って、獣はあえて人を踏み殺すように歩き出す。


「こっちに!? ごめん、俺が止めなくちゃ!!」


 シンスケは獣の虐殺行為が許せないのか、今にも駆け出そうとしている。


「だからお前何言ってんだよ? 頭やばいぞ!」


「えぇシンスケくん、仮にあなたの言うことは本当だとしても、シンスケくんは主人公ではなく我々と同じモブ側なんですよ。止めるとかではなく、止められないんです」


 確かにシンスケはただの人間に過ぎないし、何かと戦った記憶もない。だからといって何もせずにはいられない。

 

「俺は……それでも…………行かなくちゃいけない、そんな気がするんだ!」


 止めてくる友達を振り切って走り出す。次の瞬間、頭の中で彼の言葉が反響する。


『だったらッ、お前はもうモブなんかじゃねぇ!!』


「────そうだ! 思い出した!! 俺は……俺はッ、もう!!」


 シンスケの体から彼らと同じ光が溢れ出る。合体の副作用で残留した搾りカスの力がシンスケの意志に育てられたことで、現実世界の理が通用しない夢の世界の中でやっと顕現した。


擬似合体リ・コンバイン……リンク・バスター』


 光は巨剣として形作り、シンスケは獣の悪惑あくまの顔に飛び込んで剣を突き刺す。


「俺はもうモブなんかじゃない、幻には惑わされないッ!!」






 同時刻、現実世界。


 聞き込みを続けていたコアとバスターたち。

 まるでガラスが割れた音にも似た声無き叫びを聞いたのか、バスターは会話の途中にも関わらず叫び声の方に振り向く。


「兄上、どうかしましたか?」


「……聞こえた気がするぜ、シンスケの声がよぉ!」


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