第31話 手と手を、そして
「やっば現代、無駄に人多すぎぃ……めまいするから生命探知切るね」
人の群れを避けて、ジェネシス・カムイ・コアと本田ママの四人組は商店街のビル屋上をゆっくりと散歩する。
コアは人海の波動に当てられて具合悪くなったジェネシスをおんぶしながら、横で歩く本田ママからあーんされたたこ焼きを器用に食べる。
「コアちゃんすっごいねぇ! たこ焼き一口で食べちゃって、熱くないの?」
「もぐもぐ、よふうでふ!」
「なんて?」
「余裕です、だそうです……ママさん、私の手を」
「余裕じゃないじゃん……」
兄の補足を終えるとカムイは本田ママを抱っこして隣のビルに一飛びする。その後コアもジェネシスを背負ったままカムイに続く。
四人は超人にのみ許される特等席で花火を鑑賞するつもりだ。
「かっぜ、きんもちぃーね! アンタたちいつもこんな楽しいことしてんの!?」
「よかったら今度アタシが抱っこして雲の上まで連れてますよ〜」
「楽しそう〜! ジェネシスちゃんお願いね。あっ、ほらほら、カムイちゃんもお食べ! たこ焼き」
「はい、ありがたくいただきます────んっ、熱っ!」
兄の背中で揺さぶられながら、ジェネシスは視力の焦点を地上の商店街の方に向けて絞ると、僅か数秒でシンスケとカスミたちを見つけ出す。
「はぁ〜〜〜あ、いいなぁ〜〜!! アタシも彼氏つくろっかな〜〜」
同時刻、水吏街商店街。
屋上の四人組のことを知らずにシンスケはカスミと一緒に屋台を回っていた。
作りたての焼きそばとチョコバナナを持ってコンビニ横まで戻ると、白いシャボン玉柄の浴衣を着たカスミがほんのりと汗をかいてスマホをいじっていた。
「おー! おかえり!」
「お待たせ! ごめん、人がやばくて……」
「うん、やばい。ちょっと横にズレよう、ここの通りにいたら溶ける」
「そうだね。多分花火も見えな──」
そう言った瞬間、遠くから弾けた花火の爆音が二人のところまで伝わる。それと同時に辺りが火花のピンク色に染まっていく。
「うわ〜〜始まっちゃった」
「もう急がなくていいよね、シンスケくん……ゆっくり歩こう」
「うん。はい、焼きそばとお箸」
「ありがとっ……あっ、食べにくいからポーチ持っててもらえない?」
「あ、うん」
シンスケにポーチを渡すと、カスミは少しイタズラっぽく笑ってみせた。
少し前までのカスミはシンスケにとって、クラスの高嶺の花であり決して手の届かない相手でもあったが、あの病院の日を境に少しずつ彼女の人間らしい部分を知ることができた。
チョコバナナと焼きそばを食べ歩いていると、二人が歩き慣れた通学路に出る。人の熱気がすっかりしなくなったので、二人は歩くペースをさらに緩めた。
小さな公園に着くと、二人は横並びでベンチ座った。
「花火きれーー」
「やっぱ夏は屋台っすよね」
「カスミさん、バスターさんの口調移ってる」
「アハハハ、そうかもね」
「あ、ゴミ俺持つよ」
「え、あ! ありがとう」
ジェネシスたち、バスターと藍沢、たわいもないことを適当に話していくうちに、二人は少しずつ口数が減って無言になる。
それは気まずい沈黙ではなく、むしろそれは互いに心地の良い無言の会話。ぼんやりと花火を眺めているうちに、互いの手がふいに触れる。
「あ、ご、ごめん」
「……」
「……カスミさん?」
「手、繋がないんすか?」
花火を見ているふりをしながら彼女は小さく呟いて、手のひらを上に向けて何かを待つ。
緊張して震える手を重ねると、握り返してくるカスミの手が思ったよりも何倍も小さくて柔らかい。
「た、立花、手繋ぎますっ」
「っぷ、ハハハハ! アムロ?」
「緊張してるんですよ、彼」
「!?」
「え!?」
突然会話に割り込んできた声に驚いて、カスミとシンスケは同時に背後に振り向く。二人の背後に立つスーツ姿のキザ男は困惑する時間も与えずに、革手袋を素早く外して指を鳴らす。
「おやすみなさい、シンスケくん……カスミさん……」
次の瞬間、二人は強制的に眠りに落とされて崩れるように倒れる。
スーツ姿の男は自分の右手を大きく膨張させて眠る二人を包んで体内に取り込むと、また音を立てずに闇の中へ消えていった。
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