第26.5話 古の時代、かの王は
クシャ、クシャ、クシャ。
ディリュードは男の胸の中に顔を突っ込んでその心を噛み砕いて飲み込む。完食して顔を上げた瞬間、正面から飛んできたパンチが右頬に直撃した。
男の腕や体は王と呼ぶのに相応しくないほどの細さなのだが、彼の拳から放たれたエネルギーでディリュードは十数メートル先まで吹き飛ばされる。
「もう悪巧みの領域は超えたな、人を騙し惑わすことで心を喰らう者よ」
「……王様、お久しぶりですね」
「精気を吸う程度ならともかく、もう見逃せないとこまでお前は来たんだ……ディリュード、わかってんだろ」
二人が立っている城塞都市レムエウィカはほぼ死の街と化しており、その元凶は王が対峙している
「……さぁ、わかりませんね」
「前にも言ったはずだ。人の心を喰らった所で満たされることは──」
これ以上の言葉は聞きたくないのか、ディリュードは殴りかかるも簡単に受け止められてしまう。二人が衝突した衝撃波で周囲の家屋は無惨に破壊されていくが、それらの家主はすでに全員命を落としている。
「そんな生き方ではいつまでも独りぼっちだ」
「黙れ! お得意の鎧でも使えよ」
ディリュードはもう片手で殴ろうとするも王に腕を掴まれて拘束される。
「鎧は「敵」にしか使わない物だ」
「甘いですよ、アナタのお兄さんなら説得なんてしませんでしたよ……何人だって喰らって見せますから! 奴隷、庶民、商人、踊り子、役人、貴族、王族!! 人という種を消してやります」
自暴自棄になっているディリュードを見る王の目は今にも泣きそうで、民に見せることのない哀しい表情をしていた。
しかし、王の優しさはディリュードをますます怒らせてしまう。
「人が居なくなったら……お前も──」
「手に入らないものは……もう、いりません」
人を滅ぼすなんて嘘。
ディリュードのような魔物は人類の文明が発展したせいで生まれたがん細胞のような存在。人に害を与えては忌み嫌われるが、人から栄養を吸収して生きる習性がゆえに寄生するしかない欠陥だらけの生き物。
本当に人類が地上から消えたら、ディリュードも同じように死滅する。
「…………お前の答え、よくわかった」
そう言うと、王はディリュードを押し返しながらその両手の骨を握って粉砕する。これ以上はマズイとディリュードは自ら両手を千切って距離を取って、その後僅か1、2秒で失った両手は元通りに再生する。
王の敵意を感知した彼らは光となって、地上のどんな生き物よりも速く空を駆けていく。五つの流星が飛来して主の体に入っていくと、それは鎧や武器として成形していく。
旅先で出会った異国の姫、先日婚事を終えたばかりの妃が作ってくれた意思を持つ
『完全体王之鎧』
その日以来城塞都市レムエウィカとその周辺の山岳は全て地上から消え、3万年が経った今でもその痕跡は発見されていない。
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