第26話 立花家
「と、とりあえず俺めちゃくちゃ眠いから二度寝したいんだけど……カムイは自由に寛いで」
「承知いたしました、自由にします」
ひとまずカムイをリビングのソファに座らせると、シンスケは猫背のままあくびをしながら寝室に戻った。
健康的な本田家と違ってずっと半一人暮らしをしてきたシンスケはいつだって自分で起きる時間を決めてる。普段ならともかく、自由に過ごせる夏休みはいつも昼頃に起きる。
横たわって毛布を体に掛けて再び眠ろうとしたその時、何かの気配を感じて目を開ける。
「っわぁあッ!?!?」
カムイがベッドの真横に立ってシンスケを真っ直ぐと見つめている。
「な、何してんの!?」
「自由にしろと仰いましたので、シンスケ様を見守ってます」
「ちょ、ちょっと怖いかな……」
「もう大丈夫です、安心してください。今後は毎日24時間私が守ります」
「うん、怖い」
結局カムイに見つめられたままでは緊張して眠れなかったので、シンスケは観念して目を覚そうとシャワーに入ることにした。
脱衣所で上着とパンツを脱いで何となく鏡を見てみると、カムイはいつの間にか脱衣所の隅っこに移動しており、寝室の時と同じようにシンスケを見つめている。
「うわぁああああ! 怖いって!!」
「入浴のお手伝いは必要でしょうか?」
「い、いいらないよ!! リビングに居てくださいお願いします!」
「敬語は不要です」
「脱衣所から出てって!」
20分後。
シャワーを終えて新しい服に着替えたシンスケはリビングに出ると、カムイは就活生のように両足両手を揃えて凛とした姿勢でソファに座っていた。
手前のテーブルには作りたての目玉焼きとベーコンが置かれている。シャワーしている間にカムイが作ってくれたようだ。
「……勝手ながら冷凍貯蓄庫の食材で朝食をお作りいたしました」
「あ、ありがとう……すごっ、これどうやって作ったの……」
ベーコンは3枚とも同じ大きさに切り揃えられていて、切り端は玉ねぎのソースに使用されている。そして目玉焼きは外周だけでなく黄身の部分まで上下左右対称の完璧な円形に整えられている。
シンスケはそんなカムイから几帳面や堅苦しさを超越した何かを感じた。
「どうやって、ですか? 料理は感覚で作ってますのでお答えできません」
「そ、そっか……あれ、カムイの分は?」
「私はシンスケ様が休息するときに栄養補給します」
シンスケは食器棚から皿と箸を取り出して、半分に切った目玉焼きとベーコンを皿に乗せてカムイに渡す。
「それじゃあ、今休息してるから一緒に食べよ」
「……ですが、従者が主と同じ食卓を囲うなど……」
「ハハ、カムイは俺の従者なんかじゃないよ」
「…………私は不要ということでしょうか?」
わかりやすくへこむカムイがおかしくて、シンスケはますます笑ってしまった。見た目はあまり似てないが、バスターの妹であることを改めて実感した。
「違う違う、そうじゃなくて。友達でしょ、俺たち。だから一緒に朝ごはん食べても大丈夫だよ」
「友達……はい、一緒に食べます」
ベーコンを口に入れながらカムイは家の構造を観察する。
シンスケ一人で暮らすには少し広すぎる、かといって彼の両親の生活痕跡もあまりない。
「シンスケ様のご両親は別宅で生活されてるのですか?」
「ある意味そうだね。二人は医者でさ、今は外国の病院で働いてるんだ」
「医者……同じですね」
「なにが?」
家の観察を終えたカムイは澄んだ瞳でシンスケを見つめながら続けた。
「誰かの命を救い、その日常を守っているところです」
「なんか改めて言われるとハズイな…………まぁ、正直に言うとさ。もう慣れたけど、もう少しここに帰ってきてくれると嬉しいつーか……遠くにいる人よりも近くいる自分を見て欲しいみたいな?」
口では笑っているが、シンスケの目はどこか遠くを見つめていて寂しさを感じさせるものだった。
「つらいんですか?」
「…………全然、むしろ誇らしいよ。
朝食を完食したシンスケは立ち上がって、いつもの笑顔をカムイに向けた。
「それに、これからはカムイと一緒にご飯食べられるし」
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