第四章・花火と恋
第25話 居候たち
「……翼を持つ正体不明の少女、だってさ」
カスミは横で目覚めたばかりのジェネシスにスマホ画面を見せた。下緑湖消失現象の翌日にはもうすでに記事が上がっている。
本田家に転がり込んでからジェネシスはいまだにカスミの部屋で寝ている。眠たそうに目を擦りながら窓を見てみると、カーテンの隙間から漏れる陽射しですら眩しい。
「やっぱこの時代、情報が広がるのはぇ……顔映ってます?」
「うん、こんな感じ」
「うわ、ブッサ。加工してくんねぇかな」
時刻は朝9時、本田家は相変わらず夏休みでも朝が早い。
女子組二人が部屋から出て一緒に洗面所で顔を洗っていると、一階からバスターの大声が響いてくる。
「姫様ーー、ジェネシスーー! 朝ごはーーーん!」
カスミとジェネシスは互いに視線を交わして、小さく吹き出して笑った。
「何あいつ、声バカでかいんだけど」
「ハハ、わかる。てか今日ママ仕事だからバスターさんが朝ごはん作ってるのか」
「どうせまた材料をパンで挟むだけでしょ」
「絶対そう」
食卓に向かうと用意されていたメニューは二人の予想通り、サンドイッチにサラダという誰でも作れそうもの。
そして、女子二人組とバスター以外にコアもしれっと席に座っている。
「それでは、いただきましょうか」
「何でウチに居るんですか……いよいよ民宿じゃん」
「安心してください、ママさんの許可は頂いてますし、屋内のスペース取って邪魔になることはありませんから」
「え、それってどういう……」
コアは牛乳を一口で飲み干してから横の庭へ続く窓を指差した。
嫌な予感を感じつづ、カスミは恐る恐るカーテンを開けた。すると、本田家の庭には見知らぬ大型の青いテントが張られていて、その入り口手前には「コアのいえ」と書かれている申し訳程度の看板が建てられている。
「犬小屋かよ……えぇ……いや、なにこれ」
「大丈夫です、意外と快適ですよ」
「アンタの快適さとかの問題じゃないんだけど……ママ本当にこれ許可したの?」
「はい! レスキューのバイトで収入がありましたから……「バスター兄上と違って」生活費を納めましたら喜んで許可してくれました」
「金の亡者だ……」
生活費の話を聞いたジェネシスも輝いた目で報告をし始める。
「はいはい! アタシもコンビニバイト受かりました! なので私も「バスターお兄ちゃんと違って」生活費は出してま〜す!!」
トゲのある言葉に反応して、全員の視線がバスターに集まる。
「……ん? んだよ? 俺は皇居を守ってるんだぞ! 家事だって毎日ちゃんとしてるっすよね!? 姫様!」
「あ、うん」
カスミは開けたカーテンを整えて再び自分の席に戻ってサラダを一口食べる。バスターたちをぼんやりと眺めていると、あることに気づいて質問する。
「あれ、カムイさんは? ……あ、まさか屋根裏に住んでるとかじゃないよね?」
「あ〜、カムイのヤツはシンスケんとこに泊まるって言ってたっすよ」
「え、普通コアさんと逆じゃない?」
同時刻の立花家。
ピンポーン。
来客を知らせるインターホンの音は熟睡中のシンスケに届かない。反応がないので来客は何度もインターホンを連打してみた。
ピピピ、ピンポーン。ピンポーンピンポーンピンポーン。
「……んんんーーーーー! うぜぇ! 誰だよ朝から、インターホン連打とか普通に頭おかしいから」
最悪な目覚めを迎えたシンスケはダルそうに玄関へ向かう。文句の一つでも言ってやろうと勢いよく扉を開けると、大きなリュックを背負ったカムイが立っていた。
「え……カムイ、さん? 朝からどうしたの?」
「カムイでいいです」
「あ、はい。カムイさん」
「カムイでいいです、さんは不要です」
「あ、うん、カムイ」
要望通りに呼んでもらえるとカムイは満足げにシンスケの腕を握って立花家に入って行った。困惑するシンスケを気にも留めずにヒールブーツを脱ぐと、リュックを降ろして自前のスリッパを取り出して履いた。
「え、な、なんで普通に入ってきちゃうの!?」
「いざという時に備えて
「こっちの許可はいらない感じなんだ……ウチ、両親ずっと留守なんだけど」
「ではご挨拶はまた今度ですね」
「いやいや、マズイでしょ! カムイは……じょ、女子だよ! いいの? 男女二人で……」
「何か問題でも? 戦闘力は昨日充分お見せしましたので、シンスケ様をお守りするのに性別は影響ありません」
昨日は戦闘続きだったので気にしてなかったが、改めて冷静に見てみるとカムイの服装は健全な高校一年生にとって刺激が強すぎる。
カムイの丸出しの背中から目を逸らして質問を続ける。
「か、カムイさ、他の服ない? 布面積が多いやつ」
「ありません」
「なんかあるでしょ」
「ありません、今着てるのが一番布面積多いやつです」
「まじか」
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