第24話 予約をさせてください

「ライトニング、離脱しちゃったね」


「……そのようですね。一応 悪惑あくまは放ってくれましたが」


 緑野山から離脱したディリュードたちは再び水吏すいり街まで転移した。

 ストライカーはディリュードの顔を覗き込むと、不思議そうに主人に質問した。


「何十人分の力取り込んでるから、もう3体如きの王之鎧ケイゼルじゃあなたに勝てないんでしょ? それなのになんでそんなに機嫌悪いの?」


「ええ、力は得ましたが、力だけなんです。もうあんな無様にやられることはありませんが、私の横に立つ者も居ないんです」


「それカッケェーじゃん、最強なやついつだって一人なんだろ! それともライトニングのこと本気で仲間として接してたわけ?」


「どうでしょうか。仲間や友人なんて今まで一度もできたことありませんから」


 その冷たい発言を聞いたストライカーは怒ってほっぺを少し膨らませた。


「俺は仲間じゃねぇのかよ!」


「えぇ、仲間ではありませんよ。私が洗脳したんですから、私が望んだ返事しか帰ってきません」


 そういうとディリュードはジャケットの内ポケットから白いカバーのスマホを取り出した。新しいモノを目にするとストライカーはすぐに怒りを忘れて、好奇心に溢れる目でスマホを見つめる。


「ねっ、なにそれ?」


「現代の人類が発明した連絡手段ですよ。すごいんですよ、大昔は人力で伝令をしていたというのに、今はこの小さい箱で色んなことができちゃうんですから」


 ディリュードは呟きアプリを開いて、自分が引き起こした被害の状況を確認し始めた。


「人の心が広がった分私の能力範囲も同期して拡張されました、宿主以外からでも力を吸収できるようになったのは助かります。文明の積み重ねというのはつくつく便利ですね」


 ディリュードは空いた左手でストライカーの頭を撫でる。


 別に愛着があってそうしたわけではなく、たまたまストライカーの頭の位置がちょうど良い高さだからそうしているだけ。ライトニングだってそう、自分の邪魔をするから無理矢理縛りつけて洗脳しただけ。だからいずれは解放される運命だった、今日でなくともライトニングはいつかカムイに戻るはずだった。


「違いますね、こんなコミュニケーションしかできないから…………悪巧みして人を騙し惑わすことで心を喰らう者、のくせに自分の本心を騙せないなんて……皮肉ですね」


「まーーたなんかムズイこと言ってるし」


 ストライカーの髪がクシャクシャになるように少し乱暴に撫でながら、ディリュードは彼に聞こえないように小さく呟いた。


「いずれ、キミも私の元から離れていってしまうのでしょうか────」







 同時刻の緑野山バス停周辺。


 巨躯の悪惑は身体から大量の手を生やしてシンスケを無理矢理地面に押さえつけるが、シンスケの身体を中心にその周りのガードレールやアスファルトが溶岩のように熱せられて、グツグツの音を立てながら形を崩し溶けていく。

 悪惑の白い手も例外でなく、スカイバーストソルジャーに触れるもの全てが燃え盛って灰燼と化す。カムイ戦の時と違って不殺を気にする必要がないのでシンスケは巨剣の火力ギアをマックスまで引き上げた。


「ここまでだッぁああああ!!」


 シンスケの咆哮と共に放たれた波状の熱気が悪惑の巨躯をアイスクリームのように溶かしていく。巨躯の再生が溶解の速さに追いつかないため、心臓部分の仮面二つを露出させてしまう。

 シンスケはすかさず巨剣を投擲して左の仮面に突き刺すと、カムイも同じように右側の仮面に太刀を投げた。


「シンスケ様、同時に決めます」


「わかった!」


 二人は息をピッタリに合わせて、各々の武器に向かって飛び込んでトドメを刺す。


「サンダーッ────キック!!」

「バーストッ────パンチ!!」


 巨剣にはパンチを、太刀には蹴りを入れて悪惑の仮面を粉砕する。

 残った身体は炎と雷の嵐に引きちぎられて跡形なく消え失せた。


 同時に着地したあと、カムイは合体解除して旧友の龍を空に帰す。そして、そのままくるりと振り向いて、シンスケの胸に拳を優しく当てた。


「シンスケ様、助けてくださってありがとうございました」


「う、うん。どういたしまして」


「予約をさせてください」


「え、予約……何の?」


「合体です。バスター兄様には負けませんから」


 そう言ってカムイは子供っぽく微笑んだ。


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