第23話 少しは迷えよ

 緑野山の山道横のバス停。

 悪惑あくまが伸ばした拳に向かって飛び込むジェネシス。50人以上居たはずの一般人のほとんどがもう吸収された上に、救助活動をしに来た救急隊や消防隊も半数以上は悪惑あくまに取り込まれてしまった。


「これ以上は────ッ!」


 ジェネシスの全力のパンチでも巨躯を持つ悪惑には敵わず、殴り飛ばされた彼女は消防車にぶつかって車体を両断する。

 

「ジェネシス! 私と合体したほうがいいんじゃ……」


 ボロボロになったジェネシスの元に駆け寄るカスミはそう提案したが、当の本人は翼でカスミを払って遠ざける。


「ダメです……カスミさんと合体しても意味がない」


「ど、どうして? 相性良いんでしょ? 私たち」


「だからダメなんです! 回復に特化しちゃうとパワーも耐久も今のアタシより下がっちゃう……ッぐ! カスミさん逃げて!」


 慌ててカスミを払い飛ばした次の瞬間、悪惑が投げた救急車が飛んできてジェネシスに直撃する。ジェネシスは間一髪で救急車を足で受け止めたが、車体から漏れ出るガソリンが引火して爆発する。


「ジェネシスーーーー!!」


 炎と煙の中、もう翼を広げる余力も残ってないジェネシスは両膝に手を当てて何とか立ち上がる。カムイとの戦いで蓄積したダメージがジワジワと彼女を蝕む。

 目の焦点が合わず、耳鳴りが止まらない。ガクガクと震える膝を抑えて何とか立っているが、正直言って戦う力なんてもうこれ以上振り絞れない。


「…………ぇシス、避けて!!」


「え……」


 遠のいていた意識を掻き集めて顔を上げてみたが、悪惑の拳が今にもジェネシスの体に直撃しようとしていた。もう避けることも自分を守ることもできない、ジェネシスは静かにまぶたを閉じた。


 しかし、その瞬間がやってこない。

 ジェネシスの命を奪う強烈な一撃が来ない、その代わりに爆ぜるような甲高いイナズマの轟音が鳴り響く。

 恐る恐るまぶたを開けると、雷の太刀に穿たれた悪惑の白い拳は燃えながら四方に弾け飛んだ。地面に突き刺す太刀の柄の上には見知った彼女が爪先立ちしている。


「ジェネシス、いかに相手が強大でも目を瞑ってはいけません。肉体が死しても闘心は死せず、ですよ」


「……カムイ姉様」


「偉そうなことを言ってすみません、私の後始末を手伝ってくださって感謝します」


 太刀から軽やかに飛び降りると、彼女に続いてコアがシンスケたちを抱えて飛んできた。悪惑はそんなコアを狙い定めて攻撃しようとするが、カムイはすかさず太刀を膝で蹴り飛ばして悪惑の3つの仮面の内の一つを粉砕する。


 流石にこの一撃は痛かったのか、巨躯の悪惑が体から大量の手を生やして破壊された仮面を触って大袈裟に痛がる。

 隙ができたおかげで一般人たちは悲鳴を上げながら走って逃げていく。

 

「ナイスシュートです、カムイ……ジェネシス、疲れているどころで悪いんですが、この二人の回復をお願いしますね」


「任せて! ……うわっ、シンスケの手丸焦げじゃん。グロっ」


 駆け寄ったカスミは重傷を負った二人見て言葉を失う。

 王之鎧ケイゼルと違って一般人側に属するカスミは本来であれば、生涯100年生きたとしてもこのような惨い傷を目にする機会はないかもしれない。彼女との関係の進展はともかく、シンスケはすでに色んな意味でカスミにトラウマを植え付けてしまった。


 ジェネシスのおかげで回復したシンスケとバスター。

 彼らはまるでケガしていたことを忘れたかのように立ち上がって、また合体して戦闘を始めようとしていた。

 カスミの目には、シンスケが死に急いでるようにしか見えなかった。


「シンスケくん、なんでそんな………………平気なの?」


「平気だよ。みんなの、いや、カスミさんを守りたいから俺は戦うんだ」


「だったらなんで即答できるんだよ、少しは迷えよ!! ……シンスケくんが死んだら────」


 これ以上時間を与えると悪惑は立ち直ってしまう、シンスケはカスミの言葉を遮るように号令を出す。


「みんなの力を貸してくれ! 行くぞ!」


「「「モードチェンジッ!!」」」


 王之鎧一式ケイゼルシリーズの四人は光となってシンスケの胸に集う。


王之鎧合体ケイゼル・コンバイン ────エラー』


 一度集った光は弾かれてしまい、五人の合体が何故か失敗してしまった。

 全員が戸惑う中、ジェネシスだけは納得したような表情で説明した。


「やっぱり、シンスケの肉体じゃ3人までが限界だったんだ」


「おいジェネシス、どういうことだよ? 大将の肉体じゃって」


「昔アタシたちを使っていた王様は生身でもフルパワーの王之鎧ケイゼルとタイマンを張れるほどの強靭さを持ってたけど、それと比べて今のシンスケじゃ4人以上の負荷に耐えられないんだよ」


 説明を聞いたシンスケはカムイと視線を交わす、まだ一度も会話したことないのに互いの考えを直ちに理解できた。


「私は旧友と共に単騎で行きます。他の皆様はシンスケ様と合体なさってください」


「戦力的にそれが一番ベストだな……よっしゃ、野郎どもいっくぜぇーー!!」


「アタシも野郎としてカウントされたんだけど」


 バスター、ジェネシス、コアの3人で合体すると、ジェネシスの言う通り今度は無事成功した。


旧友サンダーブリンガーよ、行くぞ」


『『『「王之鎧合体ケイゼル・コンバインッ! スカイバーストソルジャー!!」』』』




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る