第17話 ガキ扱いすんな
8月5日、緑野山前バス停。
「何となく予想はしてたけど……人数多いな」
カスミは揃った参加者たちを一通り眺めて溜め息吐いた。
元々は藍沢と二人で博物館見学という話だったのに、気が付けば何故かメンバーにバスター兄妹とシンスケも加わって合計で5人になった。
「あ、バスターさんと立花くん、この間はどうも……えっとそちらの方は……」
「あなたが藍沢ちゃん? よろしくっ! カスミさんの親戚のバスターの妹のジェネシスです。あ、こう見えてハーフなんで名前は気にしないで〜」
「え、ハーフなのか?」
「お兄ちゃんは黙ってて」
「よ、よろしくお願いします! ……本田さんって親戚に外国の人いるんだ」
「へ? あ、うん。そ、そんなかんじ」
ジェネシスの言ってることはほぼ事実なのに、どうしても苦しい言い訳にしか聞こえない不思議さにカスミは苦笑いするしかなかった。
謎のぎこちなさを嗅ぎつけられる前にシンスケは登山の開始を勧めた。
カスミたちが向かう
観光客の到来も想定されているため博物館へ向かう山道は意外と緩やかで歩きやすい。
一番体力に余裕があるバスターとジェネシスのすぐ後に付いていくシンスケ、そんな彼を後ろから見てるカスミは少し息が上がっていた。
「シンスケくんさ、なんか体力ついた?」
「え?」
「ほら前病院行く時さ、一緒に走ったでしょ? あの時は私とそんなに体力変わらない印象だったから」
「実は最近ランニングと筋トレを少しずつ始めてるんだ……」
そう言われて彼の体をよく見てみると、確かに前よりも少し筋肉質になったきがする。
シンスケは藍沢に聞かれないように小声で続いた。
「今後も
「……そっか」
登山始めて5分も経たないうち、最後尾のメンバーが息切れしながら音を上げた。
「す、すみません……ちょっとキツイ、です……ハァハァ」
「おい、藍沢! すっげぇ汗じゃん、普段から運動しろよ!」
バスターはバカでかい音量で声を掛けながら藍沢の前までいくと、彼女に背を向けてしゃがんだ。
「え、あの?」
「ほら、キツイんだろ? 上まで運ぶぞ」
「あ、それはちょっと……えっと……」
無神経なバスターから藍沢を救うため、ジェネシスは兄を軽く横に蹴っ飛ばして藍沢の背中を軽く摩ってあげた。
「筋肉ダルマの汗は嫌なんだよ、お兄ちゃん退いて! …………藍沢ちゃん、どっ? 楽になったっしょ?」
「は、はい……すごい! 息が苦しくない!」
ジェネシスの能力のおかげで一気に呼吸がしやすくなり、一人で歩けるようになった藍沢はカスミたちと合流した。
倒れる兄を起こしてあげると、ジェネシスは前を歩く三人に聞こえないようにバスターと小声で会話し始めた。そして、彼女が藍沢を見る視線は戦闘の時と変わらない鋭さ。
「お兄ちゃんさ、気づいてる? 藍沢ちゃんなんか変な感じする……」
「あぁ……だけど考えようとすると頭にモヤが掛かったみたいで思い出せねぇんだよ」
「アタシも。記憶に封印された部分があると思ったけど、お兄ちゃんもか」
ジェネシスは先ほど藍沢の背中を触った右手を見つめて、さっき感じた違和感を兄に伝える。
「藍沢ちゃんの脳さ、扁桃体あたりの信号が変なんだよ」
「へんとうたい?」
「不安や恐怖を発生させる過程に影響する脳の部位。今日は初対面の人間もいる上自分だけついて行けてない状態でしょ、多感な思春期の人間なら顔に出さなくても多少は不安を感じてるはずなんだよ…………それなのに彼女の脳は始めからそういう反応が存在しないみたい」
「……まあ、大丈夫じゃね?」
思ったより軽い返しにびっくりするジェネシス。
「
「俺もだよ。姫様のご友人なんだ、悪い人間のはずがない」
「前も言ったけど、本田カスミはあくまでも転生体に過ぎない。アタシたちの知る姫様本人はもう亡くなられた、二人をきちんと区別して考えるべきだよ…………あと言いたくはないけど、シンスケは戦いに応じてくれてありがたいが彼は3万年前の王様ほど強くない。アタシたちがちゃんとしないと、この時代で戦える人間はいなくなるんだぞ」
「……ジェネシス、お前焦ってんのか?」
図星だったのか、ジェネシスは兄から目を逸らして続ける。
「当たり前でしょ。いまだにコア兄さん、カムイ姉様とジェットくんが行方不明なんだよ。アタシたち二人じゃいずれは守りきれなくなる……わかってんの?」
「わかってるって。だからこそもう少しこの時代の人間を信じてみろ……お前が言う人間が本当にそんな脆弱なもんなら、俺らが眠ってた3万年の間に滅んでたはずだ」
「…………はぁあ、お兄ちゃんは能天気すぎぃだっつーの」
バスターは昔みたいに妹の頭を撫でてクシャクシャにすると、ジェネシスは恥ずかしそうに兄を睨みつける。
「ガキ扱いすんな、この筋肉ダルマ」
「悪りぃ悪りぃ」
「おい、バカ! 撫でんのやめろって言ってないじゃん」
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