第16話 兵器は敵しか倒せず、心は友にしか救えない
商店街入口付近の中華飯店。
シンスケは色々悩んだ結果、一番近くていつも通い慣れてるご飯屋さんに連れて行くことにした。
藍沢をソファ席に座らせてからバスターと一緒対面の席に座ろうとしたが、大柄のバスター一人だけで二人分の席を占領してしまう。
「バスターデカすぎて座れないんすけど……ごめん藍沢さん、横いい?」
「あ、うん」
藍沢がキョトンとメニュー表を見ていて、その様子でシンスケは自分の店選びに対して不安になった。
「中華、あんまりって感じ?」
「あっ、ううん、なんかえっと、ザ・男子って感じで新鮮。フフ、お腹空いた」
「じゃあ、早く注文しようぜ!! 俺も腹減ってしょうがねぇ」
ベルで店員を呼ぶとバスターは元気よく全員分の注文を手際よく伝えた。
「なぁ、藍沢」
「……あ、はい」
バスターは両肘を机に置いて、少し前のめりで下を向く藍沢の顔を覗き込む。
その視線に気づいた彼女はびっくりして顔を上げる。
「ちょっと、バスターさんの顔こわいから」
「藍沢さ、少し見ない間めちゃ変わったのなんで?」
「めちゃストレートに聞くじゃん」
藍沢は目を泳がせながら考え始める。時折髪をイジったり、お冷の氷を見つめたりしてどこか落ち着かない様子で答える。
「前の私じゃダメなとこばっかで、受け入れてもらえないから」
「そぉうか? 前の藍沢そんなにダメそうに見えないけど」
「そんなことない!! あっ、ごめん大声出して……みんな人の悪い所をすぐに見つけるから、それで、いつも陰口を…………こんな時代に生まれたくなかった」
自分の嫌な部分を切り捨てて生まれ変わったつもりなのに、前のほうが良かったと言われると何だか今の自分を全否定された気分になる。
「藍沢さん……」
「藍沢、あとシンスケも」
「え、俺も?」
バスターは息を深く吸い込んで、真剣な表情で言葉を続けた。
「自分のダメな所なんて考えなくていい。お前らはただ生きてるだけで、それだけで正しいんだよ。俺の知り合い、友達、仲間そして……家族、彼らは未来に生きるお前らの為に命を懸けて走ったんだ」
「あ、あの……何の話ですか?」
「藍沢の言う通り、他人の陰を見ることでしか悦を得られない人間もいる……だけど、全員がそういうわけじゃねぇだろ。お前の隣に座るシンスケだってそう」
大男の言葉には意味不明な部分もあるが、納得できる部分もある。いつだって敵だと思っていた他のクラスメイトの中にはシンスケのような優しい人間もいる。
横を見てみると、シンスケはいつもと変わらない柔らかい笑みでバスターに続けた。
「俺、藍沢さんとはあまり話したことなかったけど、もう友達だからさ……もし何か困ってたら声掛けてよ」
「あぁ、俺も必ず駆けつけるぜ!」
「…………ともだち……私の友達」
そうこう話している間に注文した料理が届く。バスターは届いたばかりのチャーハンをガツガツと食べ始めて、その勢いにシンスケは軽く引いた。
「それじゃ、俺もいただきます──」
「あの、気になってたけど……立花くんって本田さんが好きなの?」
「え!? ゴホゴホゴホゴホッ、急に、どどうしたの?」
藍沢はスープをすすりながら赤くなっていくシンスケを見つめる。
その目は女子特有のなんでも見透かす目、隠してもムダと悟ったシンスケは白状することにした。
「う、うん。好き……ですけどぉ」
「やっぱり」
「俺もそんな気ぃしてたぜ!」
「バスターは黙って食ってて! あ、カスミさんには言うなよ」
「わぁーってるって、大将」
ずっと見せてなかった笑顔を浮かべながら、藍沢のゆるい尋問は続いた。
「どういうとこが好きなの?」
「ど、どういうとこ? えっと、全部かな」
「ありきたりだな」
「えぇ……そう言われましても、本当に全部だし」
「じゃあ、好きになったキッカケは?」
シンスケが照れて両手で顔を隠し始めると、バスターは堂々とシンスケの分の餃子を食べ始めた。
しかし、当の本人は顔の熱さで全く気づかない。
「キッカケ……わ、笑わないでよ」
「笑わないよ。私も恥ずかしい所見せちゃったし」
「入学してすぐのころなんだけど……学校帰りの道にさ、コンビニあるんでしょ?」
「うん」
「たまたま店前のベンチで休んでた買い物終わりのカスミさんを見かけてさ。彼女、自分の座ってるとこと証明写真機の間に生えてるすっごく小さい種類もよくわかんない花を見つけたんだ……俺もだけど、普通の人なら誰も気づかないような隙間に生えてるお花なんだけど」
気が付けばバスターはシンスケの餃子を完食して、藍沢と一緒に話を真剣に聞いていた。
「カスミさんね、誰も見てないのにわざわざまた水を買って、その花に少し掛けてあげたんだよ……」
「……」
「……? あの、これで終わりなんだけど……」
「え、うそ!? それだけで? 好きになったの!?」
「ハハ、そう思うよね……俺、そういう日常の中に隠れてる小さいな幸せとか、優しさを見い出せる人好きなんだよね」
肩透かしを喰らった気分だが、思えば彼はそういう人間だからこそ自分に手を差し伸べたのかもしれない。
シンスケに気づかれないようにちらっと見た藍沢は彼と似た柔らかい笑みを浮かべた。
「応援したくなっちゃうじゃん」
「ん? 藍沢さんなんか言った?」
「フフ、うるさい、幸せになれし」
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