第14話 朝っぱらから何してんすか?
ザク、ザク。
本田家の早朝、バスターは台所で4人分のサンドイッチを三角形に切って並べた。居候になってまだひと月も経ってないのに、バスターもジェネシスも妙に馴染んでいた。
「姫様、味どうっすか? うまいっすよね? 俺めちゃ気持ちこめ──」
「普通かな」
「えぇ……」
「えぇ、じゃないよ。バスターさんはママが用意した材料を挟んだだけじゃん」
「まさかウチがまたこんな賑やかな雰囲気になるとはねぇ〜」
本田ママは夫の仏壇をチラッと見て、気づかれないように微笑んでサンドイッチを一口食べた。
「その分イビキもうるさくなったけどねぇ」
「フヒヒ、お兄ちゃん寝言言ってたよ」
「いっ、言ってねぇし!」
カスミは何かを思い出したようで、スマホ取り出してネットニュースのページを開いてみんなに見せた。
「これ見て。この間の私たち、ニュースになってるよ」
「おおう、王家を讃える賛辞か?」
「お兄ちゃん、そういう時代はもう3万年前に終わってるから」
ニュースによると、反重力現象を引き起こした
当時の電波遮断の記録は残っているし、実際に死者や吸収されて行方不明になった者もいるのだが、当事者らが語っている破壊の痕跡や証拠は一切残ってない。共通する証言が多く集まっているので、警察は現在も引き続き調査している。
「あれだっけ? ジェネシスちゃんとカスミが街を直したんだよね?」
「そうです! カスミさんと合体してやったんす! ビューーって飛んで!」
「なぁにそれ楽しそう〜 私もさ、通勤する時乗せてよ。ガソリン代節約できそう」
「ママさぁ……」
「あのねぇ、大事よガソリン代。ただでさえアンタたちの食費高いんだからねぇ」
「ダルいんですけど」
その時、カスミのスマホに着信が来てその場の会話を強制的に中断させた。
手に取ると、表示されている相手の名前は藍沢トモミ。
「男?」
「違うから…………もしもし、いきなり電話なんてどうしたの?」
カスミは席を立って少し離れたソファに座って会話を続ける。
藍沢はやたらとテンションが高く興奮した口調で話す。
「本田さん! あのさ、一緒の遊びに出かけません? 緑野山」
「あ、いいけど……なんか、大丈夫? 酔っ払ってる? すごいテンション高いし」
「え、全然大丈夫! いつもこんな感じだよ私」
「そう? なら……いいんだけどさ…………緑野山って隣の県だったよね? 何で山なんかに?」
そうは言ってもやはり気になる。
話し方も声色の雰囲気も学校にいる藍沢と別人すぎる。
「そこに博物館があってね、私見てみたい展示があるんだ! ほら、ちょっと前に3万年前の発掘品が消えたニュースのとこ」
藍沢の言葉を離れても聞こえるバスターとジェネシスは一斉にカスミを注目した。博物館行けば自分たちの記憶の破損の他にも何かわかる気がしたから。
少し前学校の行事で行ってきたばかりなのだが、思い返してみるとあの時藍沢は体調不良で行けてなかった。
「わ、わかった……あのさ、他にも知り合いを連れていくのはマズイ?」
「知り合いって……もしかして立花くん?」
「え? 何でシンスケくん名前が出てくるの?」
「下の名前で呼んでるし、二人って仲良さそうだからてっきり付き合ってるのかと思ってた」
「いや全然、普通の友達だから。シンスケくんじゃなくてさ……えっと、しんせき……そうだ、遠方の親戚が家に来ててさ! 放置するのも可哀想だから一緒に連れて行こうと思って」
無駄に聴力が良いジェネシスはシンスケのくだりでずっとニヤニヤしていた。
手元のサンドイッチよりも恋バナのほうがよっぽど好みらしい。
「わかった、いいよ! じゃ、空いてる日送るからスケジュール調整しよ」
「了解っす」
通話を切った瞬間、ジェネシスは即座にカスミの横に座って彼女からスマホを奪い取った。
カスミがびっくりしている間に素早くシンスケに電話を掛けた。
「ちょっと! 何してんの!?」
「うへへ、感謝してくださいね! ……あ、もっしもしーー! シンスケ?? なに寝てんだよバカ、起きろ!」
電話向こうからシンスケの眠たそうな声が聞こえる。
ガサガサと布の擦れる音も入ってるので、布団の中で電話に出たようだ。
「……ん、はい……おはようございますぅ……うわ、8時かよ。ジェネシスさん、流石にしんどいっす……」
「ねぇえ! ジェネシスやめて!」
「イヤだもんね!」
通話の向こうでスマホを奪い合ってる二人の騒音がうるさくて、シンスケは怠そうにスマホを少し耳から遠ざけた。
「…………朝っぱらから何してんすか?……ふぁ〜〜 ねむっ……」
「カスミさんとお出かけしたくない? いや、アタシが見たいから、しろッ!!」
眠気で半開きだったシンスケの目は一気に醒めた。
ベッドから飛び起きて正座で返事する。
「え!? お出掛け! はい、したいです」
「よく言った! 後でカスミさんに日時場所を送らせるから、夏休み空けとけよ!」
「ありがとうございます、お手数ですがよろしくお願い致します」
カスミがやっとスマホを取り返した時にはシンスケとの通話が終わっていた。
その顔は真っ赤で息も荒く、流石にこれはカスミに怒られると思ってジェネシスはソファの上で土下座をした。
カスミは目を逸らしてまま小さく呟いた。
「…………寝起きの声、かわいんだけど」
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