第10話 5分の2

 爆風を放って轟音と共に家屋を飛び越えたシンスケはようやく西三番通りに到着した。そして、最初に目についたのは大通りのビル5階に突き刺さった市営バス。

 バスの割れた窓から見えるカスミのカバンとその特徴的なストラップで特定した。しかし、カスミが乗っているバスはすでに自重によって足場が崩壊しかけている、そして次の瞬間地上20mにあるバスは落下する。


『バスが落ちたぞ!!』


「間に合えぇーーーーー!!」


 剣先から炎吹かしながら体を一回転させて、同じく空中で落下中のシンスケは遠心力乗せた剣をバスに向けて投げ飛ばした。


「バスターさん、よろしくーーーー!!」


 言葉で説明されなくとも、カスミを助けたいという意志で2人の心は重なっている。バスターは即座にシンスケの意図を理解し変身解いて落ちていくバスの上部を掴む、そしてそのまま反対側の手足をビルの壁に差し込んでブレーキー代わりにした。

 おかげでバスは急落下することなく、その衝撃は全てバスターが受け止めてくれた。


 バスをそっと地上に降ろした後、バスターはバスの歪んだドアを無理矢理こじ開けて中の乗員を全員救い出した。

 カスミをお姫様抱っこして外に出ると、シンスケのことを思い出したバスターは彼女を抱えたまま来た道に戻る。


「シンスケ! クソ、さっきのバスほど高くないとはいえ、シンスケも受け身が取れない高さから落ちたんだ……」


 瓦礫を飛び越える先のアスファルトでシンスケは倒れていた。両足は関節の逆方向に曲がっていてピクリとも動かない。


「シンスケェー!!」


「……ぅう、声でか……バスター、さん?」


 バスターの大声でカスミは意識を取り戻すが、バスターの焦り顔の次に目に入ったのはシンスケの無惨な姿。

 言葉より先に先週の記憶がフラッシュバックした。

 

 シンスケの左腕の火傷。

 また同じことが起きたら、今度こそ彼は死ぬかもしれない。

 そんな嫌なビジョンが現実になろうとしている。


 2人が駆け寄ると、カスミはすぐにシンスケの首元に指を当てた。

 まだギリギリ脈はあるけど拍動が極めて弱い。


「シンスケくん!! バスターさん、救急車……救急車呼んで!」


「無理っす、このあたり電波が遮断されてる! まずは悪惑あくまをたお──」


 まだ言葉の途中なのにバスターはさらに焦った表情で下ろしたバスのほうに振り向く。その視線の先で今回の元凶の悪惑あくまが近づいてきてる、生き延びた乗客たちを浮かせてから触手を伸ばして吸収する。


「どういうことだ……偶然じゃねぇのか!?」


「な、なにが?」


悪惑あくまは暇つぶしで人を殺すことがあっても、それを吸収することはねぇはずっす。少なくとも3万年前はそうだったっす」


「じゃあ、あれは……」


「姫様、逃げてください……前に記憶領域の破損の話したっすよね。俺あの悪惑あくまの親玉を一度倒してるはずなのに、本当の能力も情報も思い出せないっす」


「誰かに消されたってこと?」


 そうこうしている間も悪惑あくまは近づいてきている。

 人型の悪惑あくまはその両手をあげて周辺の瓦礫から棒状鉄筋を何本も引き抜いて浮かせると、今度はそれらバスターたちに向けて一斉に射撃した。


 バスターの常人離れした運動能力と反射神経でも物量には勝てない。何とかカスミに仕向けた鉄筋射撃は止められたが、止められなかった分は何本か倒れているシンスケの手足と脇腹を貫いてしまった。


 シンスケは落下のショックで気絶したが、今度は逆に手足を貫かれた痛みで意識を取り戻してしまう。


「アゥぐ……い……痛……ごほっ!」 


 臓器をやられてしまったので、シンスケは生まれて初めて口から大量の血を吐き出した。


「シンスケくん!!」


「クソ……どうすればいい……」


 それでも悪惑は待ってくれず、早くも第二弾の鉄筋弾を用意して逃げる暇も与えずに撃ち込む。

 その場にいる誰もが絶望した。もうどうしようもない、逃げることも守ることも相手を倒すことも不可能。もはや死を待つだけの状況に3人とも目を閉じた。

 

「…………」


「…………ん? 攻撃来ない?」


 まぶたを開けると、飛んできたはずの鉄筋は全て地面に撃ち落とされていた。そして3人の前には蒼銀の翼を背中に生えた女が立っていた。

 天使と見間違うその姿にバスターは大声を上げた。


創生ジェネシス!!」


「お兄ちゃんさ、鈍ってんの? ガキ2人ぐらいちゃんと守んなよ……これだから脳筋はさぁ」


 悪惑が車サイズの瓦礫を投げると、ジェネシスはそれを難なく受け止めて野球のように投げ返す。流石にこの反撃は予想外だったのか、悪惑は一直線で飛んでくる瓦礫を直で喰らって数十メートル先まで吹き飛ばされる。


「うるせえ、お前も大概脳筋ゴリラだろうが」


「は? ゴリラ如き100頭集まってもアタシには勝てないけど?」


「そうかよ…… おら、ふざけてないで変身するぞ」


「あ、あの! シンスケくん死にかけているので戦うのは無理です!」


「え、姫様!? ……いや、3万年も生きてるわけないか。大丈夫ですよ、何とかするんで!」


 二人がシンスケの左右に行き、その肩に触れると揃えてこう叫んだ。


巨剣バスター、モードチェンジッ!!」

創生ジェネシス、モードチェンジ」


 バスターは剣に、ジェネシスは兜となってシンスケの素顔を隠す。

 二人のケイゼルの力で体に刺さっていた鉄筋は真っ赤に熱せられて溶け落ちるのと同時に、その傷は瞬く間に修復していく。

 剣を地面に突き刺して杖代わりに立つと、シンスケの兜の上部から青い炎が燃え上がる。そして、全快したシンスケの背中にはジェネシスと同じ翼が生えておりバスターだけでは補い切れなかった飛行能力も手に入れた。


『『王之鎧合体ケイゼル・コンバイン、モード:バスターウィングッ!!』』


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