第9話 時給1028円のバイトです♡
総合病院へ向かう道中の西三番通り手前で信号待ち中のバス内でカスミは退屈しのぎで音楽を聴いていた。外をぼんやりと眺めていると、ふとさっき帰宅の誘いをしてくれた藍沢のことを思い出した。
チャットアプリを開いて彼女に話しかけようとしたその時、流れていた音楽がシンスケからの着信音に掻き消された。
「うわっ、風の音すごっ……シンスケくん?」
電話に出た途端、強風にでも直撃しているかのようなノイズが流れ出す。
「ごめん、今バスターさんに担がれてて……それより、カスミさん今どこ!?」
「バスだけど? もうすぐ西三番通りに入るとこ」
「ヤバい! 今すぐ降りて!!」
「ちょっと、どういうこ────ッ!?」
電話が突然途切れるのと同時に、バス内の重力が消え失せて乗員全員と運転手がふわりと浮き上がった。
その場の全員が恐怖に支配された次の瞬間、バス内だけでなくバス本体も浮き始めた。見えない手にでも掴まれたように浮いたバスはビルに向かって衝突して突き刺さる。
「…………痛っ……
衝撃で意識を失いかけたカスミ、とにかくバスから出て逃げようとするも潰された座席に足を挟まれて身動き取れない。
しかし事態はそんなカスミを待たない。ビルに中途半端な形で突き刺さったバスが外側の重さに負けて、建物の崩壊と共に少しずつ落ち始めている。
そして、西三番通りに同じような反重力現象が次々と起き始めている。その元凶は現象の中心にいる老婆のような白い仮面の
「……マズイ、電話が切れた! バスターさん、もっと急いで! カスミさんが危ないんだ!!」
「これでも限界なんだぜ……クソ、姫様……」
バスターは前回のようにシンスケを抱えて急いで現場へ向かってはいるが、電柱や家屋を壊さないように注意してるのでどうしてもこれ以上の速さを出せない。
「そうだ、良い方法思いついた! バスターさん、今すぐ変身して」
「よくわかんねぇけど、わかったぜ!
黄金の剣を手にすると、シンスケは即座に強化された脚力で十数メートル飛び上がる。
そしてそのまま剣先を背後に向けて柄を捻ると、剣身のエンジンが駆動して爆発を起こす。何度もそれを繰り返すとシンスケは爆風に乗って生身のバスター以上の速度で飛び進む。
『シンスケ、着地には気をつけろ! 俺が守ってやれるのは両手だけだ、失敗したらお前は普通に怪我する……いや下手したら死ぬぞ!』
「カスミさんだって巻き込まれて死ぬかもしれないんだ、だったら迷ってられないだろ!」
『あぁ、そうだな! 大将、飛ばしてくぜぇー!!』
その一方、同時刻の西三番通りでは被害がどんどん拡大していった。
カスミが乗っていたバスのように、いろんな建物に車が突き刺さっている。
「はぁい、お待たせしました〜 なんとかピザとてっぱんめ、め、め? ……なんかのハンバーグセット」
うろ覚えのメニュー名を口にしながら料理を置くと、ジェネシスは厨房に戻らずそのまま注文した男子大学生二人の席に座った。
大学生は抵抗もできずにそのまま窓側に押し込まれる。
「な、なに!? なんで横に座るの!?」
「つかメニューも適当だし!」
「いいじゃん、味変わりませんから……ふひひ、一口もらっても良い?」
「は?」
「いや、給料日まで遠くてさ。まともにご飯食べてねぇんだよな〜 あっ、敬語……食べてませんの」
大学生2人はこのあり得ない接客態度にドン引く。しかし、ジェネシスは二人の無言を肯定として捉えたのか、凍りついた二人を尻目にハンバーグを切って食べ始めてしまった。
「はむはむ……ほら、二人も食べなよ! 肉うま、ハンバーグの柔らかさエグっ!」
「…………」
「…………店長ぉ!!」
ハンバーグの最後の一切れを口に入れようとしたその時、危険を感じ取ったジェネシスはテーブルの飛び乗って客二人を引っ張って店の内側に投げた。
次の瞬間、ジェネシスたちがいた席の外から一般車が勢いよく突っ込んできて外壁を破壊する。
「ッ!!」
車のフロントグリルに指をめり込ませて怪力で受け止めると、ジェネシスは車の横に行って歪んで開けられないフロンドドアを紙みたいに引きちぎって中の運転手を救出した。
「あ、ありがとうございます?」
反重力現象と目の前の怪力女で頭がパンクした運転手の男は全く事態を飲み込めてなく、困惑しきった表情でとりあえず感謝を伝えた。
「おじさん、大丈夫? うわ、お腹血ぃ出てんじゃん」
運転手の腹部が何かの破片で切れたのか、白かったシャツが真っ赤に染まっていた。ジェネシスが男の腹に触れると傷口は即座に止血して癒されていく。
「き、傷が消えた? き、キミ何をした!? ていうかキミ誰!?」
「アタシは
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