第二章・蘇生
第5話 今夜って空いてる?
屋上入口の重たい扉を押して開けると、すでにカスミとバスターが柵に寄りかかって待っていた。
「お、お待たせしました」
「おう! 大将、お疲れ!」
カスミはスマホをポケットに閉まってシンスケの前まで近づいて顔を覗き込んだ。
「元気そうで良かった……えっと……昨日はありがとっ、おじいちゃんを助けてくれて」
「ううん。おじいちゃん、無事で良かったよ」
「それでなんだけどさ……今夜って空いてる?」
「今夜……えっ!?」
シンスケの顔と耳は一気に赤く染まって誰が見てもわかるぐらい照れてしまう。その反応を見てカスミも自分の言い方が良くなかったと気づく。
「バカ、そういうのじゃないよ。昨日のことをママに言ったらさ、お礼にウチで焼肉をご馳走するって」
「あ、あぁ〜 そういうことね! 空いてるよ、今夜」
「ホント? 良かった〜 ねぇ、なんか好きなお肉ある? ママに買ってもらうよ!」
「俺はホルモンっす!」
よほどホルモンが食べたいのか、バスターは大声で会話に割り込む。
「ハハ、バスターさんも頑張ったもんね! 立花くんは?」
「俺は……ん〜 カルビかな」
「おい、シンスケ! なんだその無難なチョイス! 姫様からのご褒美だぞ、もっとこう……世界最上級のちょーーー高級肉とかリクエストしろって」
「語彙力終わってるな」
照れ隠しで頭をかいたら、シンスケのシャツの半袖が少し下がって隠されてた包帯が露わになる。
カスミはその包帯巻きされた左腕を見た途端、上がっていた口角は下がって瞳の奥は心配で押しつぶされる。
「立花くん……その腕……」
「あ、これ? 昨日
「大丈夫じゃないよ……痛くなくてもキミはケガしてるんだよ」
そしてそのケガは自分のせいで負ってしまったもの。
今回は勝ったものの、目の前にいるシンスケとバスターだって死んでしまう可能性はある。もしまた悪惑が出現したら同じように倒して欲しい、だがそう思っても口では言えない。
誰かが犠牲になるのは嫌だ、その「誰か」の中にはシンスケとバスターも含まれている。
「シンスケ、悪りぃ。俺のせいだ! 俺はあくまでも火力担当だから、使用者の両手程度しか守れない。他の
シンスケは昨日から気になっていた質問をバスターにぶつけてみた。
「バスターさん、自分のことを「No.1」って言ってたよね? 似たような仲間が何人もいるの?」
「おう、いるぜ! 俺含めて
もちろんほかの四人はバスターと違う性格だろうけど、カスミはなぜか自宅の食卓に座る五人のバスターを想像してしまった。
一人でもうるさいのにそれが5倍に増殖するなんてそこそこの悪夢だ。
「うわ、きっつ……」
「な、なんでそんな蔑んだ目で自分を見るんっすか……?」
昼休みがもうすぐ終わるのでカスミたちは戻ろうと屋上扉に手をかけた瞬間、扉はカチャリと開いてその反対側から一人の女子がひょこっと顔を出す。
濡烏の長髪に似合わない丸メガネをしたその女の子はカスミに話しかけた。
「あっ! いたいた! 本田さん、提出物に漏れがあったって先生が探してたよ…… あっ、わ、私のことわかります?」
唐突の質問にカスミは困惑した。
記憶の中の彼女はいつも自分の机で伏せて寝ていて、入学してすぐの自己紹介以外で声を聞いたことがない。それどころか彼女の顔もまともに見たことがない。
「えっと……ごめん! 私たちそんなに話したことないから、名前わかんないや」
「そ、そうだよね……あ、あ、
「うん、藍沢さんね! 提出物知らせてくれてありがとう、ちょっと急いで行ってくる!」
「ありがとう、藍沢さん! 本田さん待って、俺も一緒に戻るよ」
「サンキューな、トモミ!」
カスミたちが走って階を降りていくと、一人で残された藍沢はスマホで誰かに電話をかけた。
「……どうでしたか?」
「す、すごいよ! ほ、本当に恐怖心が綺麗さっぱり消えたよ! は、初めて、初めて本田カスミさんと立花シンスケくんに話しかけることができた!(なんかオマケ居たけど)」
「それは良かったですね〜 トモミちゃんの恐怖を剥がした甲斐がありましたよ」
「や、やったぁ…… 初めて、と、友達ができた! へへ」
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