第3話 お前はもうモブなんかじゃねぇ!
学校から駆け出して約15分、総合病院との中間地点まで到着したシンスケとカスミは疲れ果てでいた。
帰宅部のカスミと写真部のシンスケは正直言って長時間走ってられるほどの体力を持ち合わせてない。頭では進まなきゃと分かっていても、その一歩があまりにも重い。
「ゼェーハァー……き、キツっ……」
「り、陸上部に……ハァハァ……入っときゃ良かった…………立花くん、先に行って!」
「で、でも……俺、本田さんのおじいちゃんのこと……知らない」
「確かに……」
「─────────…………sまぁぁぁあああああ!!」
汗を滝のように流している二人の頭上から叫び声が聞こえてくる。
カスミが額の汗を手で拭きながら顔を上げると、バスターが空中から勢いよく二人の目の前に着地した。
その衝撃は凄まじくてバスターの立っているアスファルトは軽く2、3cmほど凹んでしまったが、当の本人はノーダメージで飄々としている。
「や、やば……足どうなってんの?」
「俺、No.1っすから余裕っす! 姫様はともかく、お前はもうちったぁ体力つけろよ……えっとお前、名前は?」
「あ、えっと、立花シンスケです」
「おう〜おおう〜 シンスケ、爽やかで良い名前じゃん! よろしくなッ!」
そう言うとバスターはカスミとシンスケを両肩に乗せて担ぐ。常人であればこの状態でマトモに動けないはずだが、バスターはその人間離れした身体能力でジャンプして家屋の壁や電柱を蹴って飛び上がって移動する。
担がれた二人は顔面直で風を受けながら全力で悲鳴をあげた。
「オラァァーー!! ママさんの作る朝メシ! パワーが出るぜぇ!」
「コーンフレークに牛乳入れただけじゃーーーーーん!!」
2分後、水吏中央総合病院の入り口。
バスターたちがついた時にはすでに消防車が到着していた。そのほかには警察や保護された病院のスタッフと患者もいるが、保護されている人数が極めて少ない。
素人のバスターたちでわかるほどまだ院内に取り残されている人々がいる、そしてカスミの祖父もまたそのうちの一人である。
先頭に歩くバスターは止めてくる警察と消防士を押し退けてくれたおかげで、三人は何とか病棟前まで進むことができた。
「ね! 入り口はあっち!」
「……! 姫様待て!」
入口に向かおうとするカスミの手を掴んだ次の瞬間に病棟内部が爆発した、中にいた消防士3人は爆風によって外まで吹き飛ばされる。
病棟の入り口が崩壊したと思いきや、瓦礫と炎の中から白くドロっとした触手が外まで伸びてきて倒れた消防士たちを捕食するように包み込む。
初めて見る異形にカスミは思わず一歩後ろに転けて尻もちついてしまった。
シンスケも辛うじて立っているが、自分でもわかるほど全身から血の気が引いていく。動物としての本能が告げる、今すぐこの場から逃げろと。
「あ、ああ、あれ! 何アレ!?」
「姫様もよくご存知の通り、アレは
怯えきった二人とは違ってバスターはその異形の正体を知っているようだ。
「アクマ? 私知らない……ど、どういう──」
消防士たちを吸収し終えた触手は次の獲物を求めて、近くまで来ていたカスミたちを感知した。
ソレには目や耳といった器官はついてないのに、寸分違わぬ精度で三人の心臓を狙って一直線に伸びてくる。どうやら触手はまず相手の心臓を貫いてから吸収するつもりらしい。
しかし触手らはバスターに容易く掴まれてしまい、そのままその怪力によって引っ張られる。バスターの身のこなしはまさに歴戦の戦士そのもの、触手を掴まれた異形は力負けして病棟から無理矢理引きつり出される。
異形本体も触手と同じくドロドロした膿のような体で、その液状の体を司る核は人の顔の形をした白い仮面。白い仮面の表情は恐怖によって歪んでいてひどく不気味だった。
「キモ……アレが悪惑?」
バスターは背後にいるカスミを見て、何かを察したのかシンスケの肩に手を置いた。昨日から何となく気付いてはいたが今回の騒動で改めて実感できた、この時代の戦いという行為は日常的なものではないと。
「どうやら姫様は戦える状態じゃないみたい……シンスケ、力を貸してくれ。俺と一緒にアイツを倒すぞ!」
「えぇ!? ムリムリムリ! 俺、普通の学生だよ! た、戦うとか以前にケンカもしたことないし!」
「これはシンスケにしかできないこと、お前が必要なんだ! 俺もお前と同じように一人じゃ戦えない」
自分にしかできないこと、自分が必要とされている。
それらはシンスケにとって聞き慣れない言葉なのに、なぜか勇気が湧いてくる気がした。
「俺に、しかできない……俺みたいなモブなんかでも……」
体勢を崩された白い悪惑は立て直して再び三人に攻撃を仕掛けようとした。
「そうだ! あの教室でシンスケだけが姫様を守ろうとした、俺よりも早く彼女をここまで連れてきた……だったらッ、お前はもうモブなんかじゃねぇ!!」
その一言でシンスケは決意を固めた。
何の取り柄もない少年だが、彼に長所があるとすれば決断の早さではないだろうか。
「あぁ! 俺も一緒に!!」
「よく言ってくれた、シンスケェー!!
その雄叫びと共にバスターの体はまぶしい光に包まれて悪惑の触手を勢いよく弾き飛ばす。次の瞬間、バスターの姿が消えた代わりにシンスケの身長よりも大きい黄金の剣が地面に突き刺さっていた。
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