第3話

 ラジオは、空間を電波でつなぐ、人間の発明品だった。

 送信機をかかげ「自由に話してみなさい」とお姉さまはいった。

 私は日々のできごとや、砂遊びの作品についてや、惑星からみた「青い星」の雲模様をかたった。

「とどいている?」私は「青い星」の人の声がきこえない。

「えぇ……夕の話は、きいてて飽きないわ。きっとリスナーさんもおなじ感想をもっているはずよ」

「りすなー? 新種のオイルのことですか?」博士はよく、任務が成功した時の褒美として、私たちのギア部分にオイルを注入した。ちなみに、博士が大事にしていた酒蔵に小火がおきた時、消火のためにオイルをまいたが、さらに火の手は増し、博士は号泣していた。

「イイエ……電波を受信した人のことよ」

 わずかな暇つぶしにはなったが、この惑星は、人々に娯楽を提供するには、刺激に欠けていた。なんせ、私たちのほうが暇なのだ……。

 話すネタはすぐに尽きた。

 お姉さまは「リスナーからお便りを募集しましょう」といった。

 お姉さまの受信機能は壊れていたが、今日から修理にとりかかった。

 修理と同時に、幅広い電波層をうけとるため、改良も行っていた。


 しかし、適正な電波を受信することは、困難であった。

 最初に受信した電波は、繁殖期に入った虫の羽音だった。

 お姉さまは「この虫は死肉に群がるタイプのものだ」といい、交信を切った。

 次に受信した電波には、ノイズがまじっていた。

「解読してみましょう。波のリズムからして、かなしみをたずさえている」解読の結果、座礁したクジラが、救難をもとめる電波であった。

 子クジラのようで、母をもとめて、ないていた。

 お姉さまは、電波の発信源をさぐり、付近にすむ人々に、クジラの救援をもとめていた。

「クジラはどうなったの」

「もういいの」

 送電はいずれ、断ち切られ、クジラの行く末は、わからない。


「人の言葉が必要ならば」ある日、宙にシャトルがとんでいた。富豪がつくった、月面を探査する銀色のシャトルで、白い羽模様が、機体にプリントされていた。お姉さまはリスナーに、人の声をもとめていた。「たまに宙をまう、人工物に語りかけてみるのはいかがですか」

 シャトルは、『青い星』をおおう、黒煙にのまれ、きえていった。

 お姉さまはボソリと「あのシャトルは無人機よ」とつぶやき、また、機械いじりを始めた。


 やがて、お姉さまの努力が実り、人の声がとどくようになった。

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