Fi
◆
それからの彼女は、以前の自分を殺すような振舞いをした。
人間など信じない。そう思わせる態度を取り続けていた。
以前まで関わりのあった人間のすべてを遮断するようにした。プールの時に一緒に楽しんでいた女の子の友達も、もしくは他で関わりのある子にたいしても、関わりを持つようなことはなかった。すべて、彼女は遮断した。
人はそんな彼女に触れることはなく、そうして環境に合わせていく。何があったのかを僕に聞く人もいたけれど、僕はその疑問にどう答えるべきなのかはわからなかった。答えるつもりも存在しなかった。
彼女は変わった。以前とは違う姿を見せ続けている。
目元を長い髪で隠して、誰とも視線を合わせない様子。孤独を誇示するように歩んで、誰ともかかわりを見せない姿。引っ込み思案、という形が何も存在しないように、何も気にしない振舞いを続ける。
◇
今日は雨が降るらしい。天気予報は見ていないけれど、珍しく朝から家にいた母が僕に折り畳み傘を持つように声をかけてくれた。
僕は言われるがままに、それを鞄に仕舞い込んだ。大して重さは変わらなかった。
雨が降る、という言葉を聞いて、僕はそのまま雨が降ればいいのに、と考えてしまった。
彼女のことを見てしまえば、どうしようもなく罪悪感と喪失感が心の中にとどまってしまう。それが僕の罪なのだけれど、罪だからこそ忘れてしまいたい。だから、雨が降ればいい。
雨が降れば、傘をさすことができる。彼女を視界に入れることはないままで過ごすことができるかもしれない。だから、雨が降ればいい。
雨が降れば、僕は少しくらい救われると思ったから。
◆
彼女が来なくなってしまった家の中で、僕は息苦しさを感じる。もしくは生き苦しさかもしれない。
寒さのせいだろうか。世界の、秋を思い出させない冷たさの中にいるせいだろうか。
張り詰めた空気が肺の中に閉じこもっている感覚がする。呼吸が鬱陶しいような気もする。そのどれもが空っぽになった感覚を覚えさせる。
彼女に言葉を伝えることはできない。彼女が言葉を受け取ってくれることはない。きっと、僕から言葉を吐くことはできないかもしれない。その勇気を持てないのだから、諦めるしかない。
失う感情に慣れたくはない。この喪失感に慣れたくはない。誰かのせいにしたい、八つ当たりの気持ちを抱いてしまう。それが後ろめたくて仕方がない。
どこまでもわがままだ。どこまでも罪深い。どこまでも、悪でしかない。独りよがりでしかない。葵のことを考えていない。それは、どこまでも悪でしかない。
僕があの時に殺したのは、猫だったのだろうか。
いや、僕が殺したのは彼女だった。
だから、受け入れろ。
それだけが、僕に許される罪悪感なのだから。
僕が殺した 若椿柳阿 @WakaRyuu
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