第2話 運命の人現る
「じゃあ、占うよ?」
「はい! お願いします!」
「…………」
閃ちゃんに、運命の人との出会いはいつあるのか……、私は占ってもらうことにした。閃ちゃんは、いつもの態勢に入る。1~2分だろうか。少し、風も無いのに閃ちゃんの前髪が揺れる。
(くる……)
私は、そっと、閃ちゃんの瞳が開かれるのを待つ。
「今日」
「え?」
「今日。って出た」
「凶!?おみくじの凶!?」
「なんでよ! ……いつ出逢うか占わせておいて、なんで運勢占ってるの……」
「あ、そか……。ははは。よかった……。よか……よか……よ……よくなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!」
「しーー!! クラス中に響く大声やめて! 何よ! 何が良くないの!」
閃ちゃんが、耳を抑えて、険しい表情で私を睨んでいた。しかし、私にそんな事気にしている余裕はない。
「だって! だって! 今日、私、ほとんどメイクとかしてないし、爪だってささくれだらけだし、何なら寝癖までついちゃってるよ!? どうしよう!!」
「ばか……」
「え……」
一人、大騒ぎの私をよそに、閃ちゃんは何のことは無い……と言った感じで、落ち着き払った口調をもってしてこう言った。
「運命が全て……予想通りに進んで、でも、それをすべて知る事で、自分が成長する過程を切り捨てちゃ駄目。恋って言うのは、愛にしたらもっとだけど、出逢ってから、その人に認めてもらう為に、自分を磨き始めるものでしょ?だから、今日は、運命の人に会える。それだけを楽しみにしてれば良いの。可愛くなっていくのは、出逢った後からなんだから」
閃ちゃんは、いつもこんな感じだ。占いを、目一杯利用してやろうと、いつも画策する私だけど、閃ちゃんは、やりすぎは良くないと、いつも、どこか優しく、どこか厳しく、諭してくれるのだ。
「……閃ちゃん、閃ちゃん、絶体おっきな占い師になるよ!!」
「……おっきなって何よ……」
眉毛をしかめてはいるけれど、閃ちゃんは少し、嬉しそうにした。
―放課後―
(誰なんだろうな……運命の人って……。って言うか、もう放課後だけど……)
私は、下駄箱で、靴を履き変えながら、ぶつぶつ言っていた。でも、正直、そんなに焦ってはいない。何故って? 閃ちゃんが占いを外す訳がないからだ。くだらない事から、今日みたいな結構重要なことまで、私は閃ちゃんに占ってもらって来たけど、これまで、100発100中なのだ。だから、帰り道にでも会うのだろう。
と、思っていたら……、その時だった。
「あ、ねぇ、君」
「はい?」
聞きなれない男子の声に、なーんも考えず振り返ると、そこには、やっぱり、見た事の無い男子が……靴の色が3年生だから、見た事の無い先輩の男子が、佇んでいた。
「君、今これ落とさなかった?」
「え……?」
その先輩の手に大事そうに包まれていたのは、私のスマホだった。
「あ! すすすすみません!! 私、おっちょこちょいで! いつ落としたんだろう!?」
一人、焦る私。
「……さっき……階段でだだ滑ってた時……じゃないかな?」
「!!!!」
(み! 見られてたのかーーー!!!)
私は、よくすっ転ぶ。なので、さっきも、階段を5段ほど踏み外し、鞄の中身を全てぶちまけたのだ。全て拾ったつもりだったが……。
「怪我とかしてない? 大丈夫? スマホは壊れてはなさそうだけど……」
「あ……はい……大丈夫です。す、すみません」
「いいよ。気を付けてね。お休み。」
(この高校では、学校に来て、一番初めに会った人には、昼でも『おはようございます』。放課後は、『おやすみなさい』と言う決まり)
「あ! はい! おやすみなさいませ!!」
にこっ!!
(!!)
きっと、この時、その先輩は、『おやすみなさいませ』に笑ったのだろうけれど、私には、私に微笑みかけているようにしか見えなかった。すりこみ(?)とは恐ろしいものだ。
けれど、確かに、この胸が高鳴った。きっと、今、私の顔は夕陽より赤い。
「お待たせ、充希」
「……」
「充希?」
「閃ちゃん……出逢ってしましました……」
「?誰に?」
「私の……運命の人……」
「……あ、そ」
閃ちゃんは、やれやれ、と言った感じで、
「明日の占いの内容は決まったかもね……」
と言った――……。
―次の日―
「あー! あの先輩の名前、なんて言うんだろう!? 次はいつ会えるのかな!? ねぇ、閃ちゃん、この恋は上手く行くのかしら!?」
「あのね、充希、それは、自分で努力しなさい、って言ったでしょ。それに、幾ら私の占いが当たるって言っても、運命は刻一刻と形を変えて、その行方は幾重にも分かれてるの。だから、占い、あてにし過ぎない事!」
「う……はい……」
「……で? 本当に昨日のあれだけで本気で好きなったの? その先輩のこと」
「うん! あの笑顔が、忘れられないの!」
「ふー……」
「……呆れてる?閃ちゃん」
「まぁね。でも、占ったのは私だし、それを信じちゃうのが充希だし、これはある程度仕方のない事かな、とは思うよ」
「じゃあさ! 今日のラッキーアクション、占って!!」
「もう……充希に私が占い師だってバレなきゃ……」
「もう遅いよ」
「…………」
「お願い! 閃ちゃん!」
「はいはい」
『今日は、何事も積極的に色んな事に挑戦しなさい。そうすれば、恋愛運が上がると見えた』
「今日は、学園祭のクラス委員長と、副委員長を決めるぞ! 我こそは! って奴、手ぇ挙げろ」
「鈴木(担任)って、すんげー無茶な事言うよな……」
「いる訳ねーよ。ただでさえ、他の係だって大変なのに……」
と、クラス中が、鈴木先生のエネルギッシュな決め方に、あり得ないオーラを出しながら、犠牲となるものを待っていた。
(私だってやだよ……。頭いいわけでもないのに、学際にそんな時間割いた……ら……)
「!」
『何事も積極的に挑戦しなさい』
(……いや……でも……)
「いないのかー?」
「…………や! やります!!」
ザワッ!!!!!
クラス中がどよめいた。私は、閃ちゃんの前だと、元気がいいけど、クラスではあまり目立つ方ではなかったから。でも、閃ちゃんはいつも私の我儘を聴いて占ってくれてるんだ。閃ちゃんの占い通りに行動しなくちゃ、閃ちゃんに会わせる顔がないよ!!
「おー! 那珂町! 中々いいぞー! じゃあ、委員長は那珂町で良いか?」
「「「「「はーい」」」」」
「んじゃ、次は副だ!」
「私やっても良いです」
ザワッ!!!!
またもクラスがどよめいた。手を挙げたのは、閃ちゃんだったのだ。その途端、
「俺いっときゃよかったー!!」
「俺もだー!!!」
などと、男子の心の声が駄々洩れになった。
(私って一体……)
そう思った、那珂町充希なのでした。チャンチャン♪
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