3-4 あの人なら、オヤジに呼ばれて。

 翌日になっても、裕也さんは姿を現さなかった。


 僕が衆人環視の前で錯乱したばかりに、後始末に追われているのかもしれない。組長さんに呼び出されて事務所に詰めているとなると、近藤組上層部ではしっかりと問題視されてしまったのだろう。


 裕也さんは悪くない。


 総じて悪いのは、僕である。


 綾乃との面会に踏み切ったのは、全て僕の我がままだ。裕也さんは僕に付き合わされただけである。


 僕はあまつさえ現場で錯乱し、嘔吐までしてしまった。裕也さんは、そんな僕の世話まで焼いてくれた。裕也さんが責められる謂われはない。責められるべきは僕である。


 だが近藤組は極道だ。


 上司に頭を下げ、しかるべき書類さえ提出すれば良い、というものでもない。


 上にも下にも示しを付け、各々の胸に刺さるような謝罪をしなければならない。発生した問題に対する解決方法の提示を行う前に、組への忠心を表明しなければならない。


 信用を回復しなければならない。


 小指を落とさせる訳にはいかなかった。


 これまでにも出張やら何やらで、数日くらい裕也さんと会わないことは何度もあった。


 今回は訳が違う。


 胸騒ぎが止まらない。


 小平さんに裕也さんの行方について尋ねるべきかとも考えたが、やめておくことにした。


 昨晩から、ずっと頭に引っかかっていたのだ。


 なぜ舎弟にあたる小平さんが、兄貴分である裕也さんを『あの人』なんて、他人呼ばわりをしていたのだろうかと。




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