第26話 開幕
夏休みが開けた初秋。
【イング】にはやらねばならぬ事があった。
年に一度の祭典――学園祭。通称『川福祭』。
「【イング】と言えば祭り! 祭りといえば【イング】!」
夏休み中に悠里が高らかに宣言したことにより、【イング】は『川福祭』にサークル参加することとなった。
十月最後の週末。隣接する医学部と短大を合わせた三校が前夜祭・後夜祭合わせて四日間同時開催するその大規模イベント。
本日はその初日。
平日の金曜日。時刻は午後三時五十分。
大学構内は熱気に包まれていた。
教科書や、資料の山を抱えた学生。白衣姿の教授や院生が闊歩していた構内はしかし、様変わりを遂げていた。
校門からドクターヘリが停まるヘリポートを通り過ぎ、校舎へと続く直線の道。そこに準備されている白いテントの数々。
色取り取りの手作りの旗や看板を持った生徒たちがせかせかと慌ただしく、しかし楽しそうに準備に追われていた。
今日は『川福祭』の前夜祭だ。
「ヒャッホーー! 祭りだ! 祭りだ!」
今日も――いや、いつも以上にハイテンションの悠里が元気な声を上げていた。
「はしゃぐのはいいけど、模擬店もあるんだから忘れんなよ」
「まぁまぁ。模擬店は明日からなんやし、こうして準備も終わったんやらから」
「そうだそうだ!」「そうだそうだ!」
受付が設置されているメインストリートを校舎に向けて歩いていくとすぐにある左への曲道。その先に在るのは全面芝生張りの運動場が見下ろせる三角形の広場。【イング】の模擬店はその広場に入ってすぐのところにあった。現在はテントの足を倒した状態で明日の朝最終準備をする予定になっている。
模擬店の場所は毎年抽選で、三十近い部活やサークルが名を連ねる。
模擬店大賞を狙う【イング】としては勝負どころの一つだ。
そして、各代表が集まり厳選な抽選の結果、悠里が見事この場所を引き当てたと言う訳だ。
メイン通りは当然客足が多いがその分模擬店の数も多く、人通りも激しい。しかし、この場所であればメイン通りからも見え、すぐ足が延ばせる。その上開けたスペースとなっているため人混みで疲れた人たちが休憩がてら食べ物や飲み物を買って一休みするには正にうってつけの場所らしい。
「流石悠里ッ!」
千草が惜しみない賞賛の拍手を贈った。
「へっへッ! ま、私にかかればこんなもんよ!」
得意顔の悠里が腰に手を当て、ない胸を張る。
そんな光景を見て、
「今の内に言っとかないと、当日当番忘れられても探し出せないだろうが……」
苦労人のような顔で巧が溜息をついた。
「なぁなぁ、そんな事より早く行こうぜ!」
悠里が待ちきれないといった様子で言った。とういうか、すでに身体が移動を始めていた。
「……アイツ俺の話ちゃんと聞いてたか?」
「ははは、でも悠里の言う通り早く行かないと前夜祭参加出来んくなるで? 定員三百名何て多い様で、アッとちゅう間に集まるやろうからなぁ」
「それはヤバい! 早く行こう!」
彩の言葉に千草も先を行く悠里を追いかけて行った。
「……明日アイツらの首に縄でも付けとかないか?」
「ははは……」
巧の真剣な目に、彩が渇いた笑い声をもらした。
『川福祭』の前夜祭は川崎医療福祉大学体育館第一アリーナで先着三百人限定。
午後四時から入場開始で開始は午後五時から。
イベントスケジュールは五時からカラオケ大会。六時半から〇✕クイズ。七時から抽選大会。七時半からバンド演奏で八時頃まで行われる。
「よっしゃ! 抽選券ゲット~」
会場前に行くと既にかなりの人だかりとなっていたが、何とか全員抽選券をもらうことが出来た。
三百人が押し寄せたアリーナは正に人・人・人!
「うわぁ 凄い人だね……」
集まった熱気に千草が思わずと言った風に呟いた。
「そりゃ、祭りだからね!」
その中でも一番熱気を放っていそうな悠里が千草の頭を撫でた。
「な、何?」
「ん〜。ちぃちゃんも成長したなと思ってさ。最初の頃は私と彩の二人だけでもテンパってたのに、今ではこんな人混みでも気後れしてないじゃん」
「ま、まぁね!」
悠里に褒められ気を良くした千草は、その身長に見合わない胸を張った。
「みんな〜〜!! 盛り上がってるかァァァ!」
雑談をしていると、いきなり声が響いた。
ステージに視線を向けると、一人の女性がマイクを片手に壇上に上がっていた。
「オオオオオオオオォォォォォォォォ!!」
「うるせぇ!! よっし、『川福祭』前夜祭の開始だぁ! ノリ遅れるんじゃねぇぞ!!!」
シャウトが、歓声が、アリーナを震わせる。
かくして、四日間に渡る
イング! 菅原 高知 @inging20230930
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