第19話 旅行と温泉

 翌日。

 一同は帰路につく――はずだったのだが、悠里の一言で予定が変更された。


「なあ、温泉入って行こうぜ」


「何だよ藪から棒に」

 帰り支度しながら巧が聞いた。

「旅行っていったらやっぱ温泉だろ。昨日ダイビングしたから髪や肌もダメージ受けてるだろうし。巧自慢の美貌が台無しになっちゃ大変だろ」

「朝っぱらから喧嘩売ってんのか?」

「まぁまぁお二人さん」

 やいのやいの話す二人の間に彩が入り、

「高知市内まで戻ればいい温泉あるみたいやけど、お金は大丈夫なん?」

 流石は【イング】の会計担当。

 みんなの懐事情をよく分かっている。

 三人は慌てて財布を確認する。

「何だよ。巧も行きたいんじゃないかよ温泉」

「誰も行きたくないなんて言ってないだろ」

「私は行きたい。それでフルーツ牛乳飲みたい」

「は? 温泉の後はコーヒー牛だろ」

「何言ってんだ。牛乳一択だろ!」

 千草も混じり再びやいのやいの言いながら各々が財布を漁る。

「三千円くらいなら」

「俺もそんなもん」

「私も」

 微妙な顔で財布から視線を外し彩を見る。

 足りるのか? 足りないのか?

「オッケー。それなら大丈夫。帰るんが少し遅くなるけど問題あれへん?」

 三人は大きく頷いた。


 千草たち四人は一路高知市まで戻り、暫し観光サイトシーイングをした。

 観光名所の桂浜かつらはまでは、高知の偉人坂本龍像と写真を撮り、こじんまりした桂浜水族館では海亀に餌やりもした。

 備え付けのトングで魚の切り身を上げたのだが、その咬力にトングまで取られそうになった千草が大いにビビっていた。ダイビング前にここに来ていたら、昨日海亀に接近できなかっただろう。

 隣接する桂浜公園で念願のウツボのたたきとから揚げを食べた彩はご満悦。その後こちらも名物だというアイスクリンを四人で食べた。

 何というか、昔懐かしい味であった。


「いや~ 楽しかったな」

 助手席で伸びをしながら悠里が言った。

「そうやねぇ」

 車のハンドルを握りながら、彩も楽しそうだ。

 時刻は午後四時。

 いよいよ本日の最終イベント温泉へ。

 彩が案内してくれたのは『姫若子ひめわこの湯』。

 名前の由来は坂本龍馬に次ぐ高知の偉人――長曾我部元親。彼の幼少期の異名から取られているそうだ。


 内風呂に露天風呂。薬湯があれば壺湯もあり、サウナも塩とスーチームの二種類。 

岩盤浴まで完備されていた。

 悠里は『風呂は命の洗濯だ~』とご満悦。

 千草は彩に付き合って初めてのあかすり体験。

「おおお⁉ 私の身体体積が減っていくぅ」

 と、驚きの声を上げ担当したお姉さんに笑われていた。

 一人男湯の巧はと言えば、知らないオジサンに話しかけられ、あれよあれよという間にサウナ我慢対決へ。

「がはははは! 中々やるなっ」

 というお褒めの言葉を頂いていた。


 温泉の後はお待ちかね飲み物タイム。

 宣言通り、千草と彩はフルーツ牛乳。巧がコーヒー牛乳、悠里が牛乳。

 四人並んで腰に手を当て、小指を大きく上に向けて一気に身体を反る。


 ゴクゴクゴク


「「「「ぷはっーーー」」」」


「私この時の為に生きてる」

「ととのうわぁ」

「……生き返った」

「やっぱ牛乳最強!」


 千草がしみじみと、彩がほわッと呟き、サウナでのぼせた巧が心からの声を漏らし、悠里が元気よく叫んだ。

 

 その後、休憩スペースで大量のマンガに興奮した千草。按摩器に揺られた彩が『胸が大きいと肩が凝ってしゃぁないわ~。悠里が羨ましいわ~』といつも通りの爆弾発言。襲い掛かろうとする悠里を羽交い絞める巧。

 ご飯も併設するお食事処で太平洋の新鮮な海鮮丼を食べた。


 全員大満足して岡山に戻っていった。

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