第9話 美観地区③
その後再びの腹ごなしと称して、倉敷観光案内所、民藝館、日本郷土玩具館を梯子した。
歩くこと数分で到着した観光案内所と民藝館は中世のヨーロッパチックで、観光案内所の方は国の有形文化財になっているそうだ。
民藝館は日本で二番目の民藝館で世界各国の暮らしの中で使用される丈夫で美しい品々が所蔵されており、歴史好きの巧が特に食いついていた。
郷土玩具館は江戸時代から現代にかけて日本各地で作られた郷土玩具が展示されており、こちらは千草も楽しむことが出来た。
散策する事二時間ほど、時刻は午後一時過ぎ。
朝とは別世界の賑わいが広がっていた。
川を挟んで美観地区の街並みを堪能する人々。中にはどこかにレンタルショップがあるのだろう、着物を着た観光客の姿もあった。
川に視線をやると手漕ぎの遊覧船が進んで行く。
「さすがゴールデンウィーク。早めに来といて正解だったな」
周囲の観光客に視線を向けながら悠里が言った。
これには全員首を縦に振った。
昼食はまだだが、さすがに朝からパンとパフェを梯子したため、まだ、空腹感はない。
「彩、まだお腹は大丈夫か?」
サークル一の食いしん坊に悠里が腹具合を確認した。
「当たり前やろぉ。レディ捕まえて何聞いとるんや。こんな可愛らしい子がそんなにバクバク食べるわけないやろぉ」
「さよか~」
いったい何の冗談かと思ったが、悠里の淡白な反応を見ると、どうやらいつも通りの反応のようだ。
「よっしゃ、実は昼ご飯の予定は立ててなくてさ」
「ちょっと⁉」
いきなりの発言に先程の自分の発言を忘れて彩が噛みついた。
「どうどう」
「やかましいわっ――お、お昼ご飯がないってどういう事よぉ~」
言葉初めこそ悠里に食って掛かる勢いの彩であったが、千草と巧が止めると、膝から崩れ落ちてしいまった。
「まぁまぁ落ち着けって。ないとは言ってないだろ。予定立ててないって言っただけだ」
「どういうことよぉ?」
「ここからは、観光地らしくいこうって事さ」
親指を立ててウインクする悠里を、首を傾げて見つめる三人であった。
「こういう事やったんね」
そこにはすっかり機嫌を直した彩がいた。
その口元に青く丸い物体が吸い込まれていく。しかも両手にも同じモノを持っていた。
「あれでよくレディがどうとか言えたな」
巧が同じモノを食べながら、呆れた声を漏らした。
「はははっ まぁまぁ。やっぱり彩ちゃんはああじゃないと」
フォローを入れる千草の手にも真っ青なソフトクリームが握られていた。
「やっぱり観光地巡りの醍醐味は食べ歩きだろっ」
そう言いながら、悠里も青く丸い物体に齧りついた。
荒れる彩を宥めながら、悠里に連れられ向かった先は『倉敷デニムストリート』であった。
四人が食べているのはそこの名物『デニムまん』と『デニムソフト』。
どちらもデニムにちなんで青系統の色に仕上げられた。
名物とは言え敢えての食欲減退色。開発秘話を聞きたいところだ。
「巧、その青色どうやって出してるか分かるか?」
『はむっ』と自分のデニムまんを食べながら悠里が聞いてきた。
「ん? 食紅とかじゃないのか」
「チッチッチ~。違うんだなコレが。ちぃちゃんも食べてみる?」
差し出されたデニムまんを一口。
「ウマい」
普通に美味しい肉まんの味だ。
が、微かに違う風味も感じる。
「……どこかで食べたことある味」
「おッ 流石ちぃちゃんこの微かな違いが分かるか~」
「え、何だよ? 見た目以外普通の肉まんと同じだろう」
慌てて巧がもう一口。首を捻りながら『モグモグ』と目を閉じながら味を吟味し始めた。
が、結局分からなかったようだ。首を傾げている。
「悠里、もう一口頂戴」
「はいよ」
千草は作る事は専門外だが、食べる事では誰にも負けない。変な自負を抱いてもう一口。
「皮から感じるこの微かな甘酸っぱさは――⁉ ラムネッ」
「コンガッチュレーション~~~」
悠里が拍手で称賛した。彩も塞がっている両手を何とか打ち付けてニコニコ。
「さすがちぃちゃん。大正解っ」
ご褒美とばかりに悠里がデニムまんをもう一口千草に勧めた。
「ありがと。じゃあソフトクリームどうぞ」
半分ほど貰ってしまったため、千草も自分のデニムソフトを悠里に勧めた。
「お、おうっ。サンキュ――んん~冷たくてウマい」
楽しそうにキャッキャウフフな二人を余所に、
「ラムネ……味するか?」
巧は己の舌に首を傾げていた。
作る派と食べる派の違いが出た瞬間であった。
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