あなたの嫌いなバラの匂い
@ha-shi
第1話
ーーピロン。
“新着のいいねがあります”
年齢、41歳。独身です。
ーーうん、アリかな。
趣味は、料理を作ること。
料理は僕に任せて下さい!
ーーうん、かなりいい感じ。
彼女が出来たら、たくさん甘えて欲しいです。
ーーこんな人、待ってた!
…でもダメ。
…"あの人"に似てない…
「ごめんなさい……っと」
ーーー2年前ーーー
土砂降りの夜だった。
信号待ちで停車していた私は、外を眺めていた。
「……。はぁ………」
あの日は、うんざりするような事が、うんと多くのしかかって
このため息ごと、この土砂降りの中に沈まりたい気分だった。
信号が間も無く青に変わろうとしていた、その時だった。
…ガッシャーーン‼︎‼︎
衝撃を体で受け止めた後、感じるはずのない雨風が頬をつたった。
…えっ?……なに?
後ろに目をやるとガラスが割れ、車が突っ込んで来ていた。
あまりにも突然の出来事に、頭が追いつかず、体が動かない。
…えっ?……車…?
食い込むシートベルトに違和感を感じながらも、ただただ後ろを眺めることしか出来なかった。
ーー後ろの人も降りてこない。
暗闇で影を捉えることすら出来なかった。
無事なのか。無事じゃないのか。
まさか逃げたのか?
そんな事を考えていると違う方向から声が聞こえてきた。
「ーーーーですかっ、大丈夫ですかっ、聞こえますか、」
運転席側の窓を叩く男性。
こんな土砂降りなのに傘すらさしていない。
土砂降りの雨のせいで声が掻き消される。
「窓、開けられますかっ」
追いついていない頭のせいで、反応が遅れる。
ーーあっ、窓?どうやって開けるんだっけ。
咄嗟にわたしはドアを開けていた。
「大丈夫ですか?どこか、痛いところありませんか、救急車呼びましょうか」
目をまん丸にして、スーツ姿の男性が
私が開けたドアに手をかける。
未だに頭が整理できない私は、
あ、えっと…
と言葉にならない。
「っていうか…あの人何やってるんだ…ちょっと待っててください」
その男性は、後ろの車に目をやると
走って行ってしまった。
衝突してきた車の人と何やら話をしている。
どうやら無事みたいだ。
後ろの人が降りてきたのを確認したのと同時くらいに、首に痛みが走った。
「……あの、本当にすみません…
今警察を呼びました……お体、どこか痛みますか」
おじさん…というより、おじいさん。
申し訳なさそうに、下に目線を向けたままボソボソと喋る。
「……あ、首がちょっと…」
やっと状況を飲み込めて、少し痛む首を手で押えて見せた。
「救急車呼びましょう」
最初に声をかけてくれた、スーツ姿の男性が、おじいさんの後ろで声を張り上げる。
「いや、そこまでては…ほんの少し痛いかなってくらいなので…」
「念の為、ね?僕が呼びますから」
とりあえず車から降りようとすると、おじいさんに全力で止められてしまった。
救急車に電話をしているスーツ姿の男性と、おじいさんは傘もささずに立っていて、事故を貰ったのは私なのに
なんだか凄く悪い気持ちがして、
すみません、
と呟いた。
ーーー雨が強くなる。
電話が終わったスーツの男性が走ってこちらへやってくる。
「今、救急車来ますよ。じきに警察も来ると思います。車、1度エンジン切れますか?」
「ーーっあ、はい。」
言う通りエンジンを切ると、少し遠くでサイレンの音が聞こえた。
「あっ。来たかな」
「あのっ、傘、使いますか?すみません…今更…」
後部座席に傘があったことを思い出した。
ずっと雨に打たれている彼を見て、罪悪感から声を張り上げた。
ーー救急車に乗ってしまったら、もう会えない気がした。
そんな私の罪悪感を吹き飛ばすくらいに
「これ、ずっっとクリーニング出したかったんです。雨に打たれて丁度いいです」
と、晴れの日みたいに二カッと笑った。
あなたの嫌いなバラの匂い @ha-shi
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