最終話 ふざけんじゃねー結婚

 ガチャ


 「あの……お母様? せめてノックだけでもお願いしたいのですが……」


 「どうだったかしら? 今日の殿方達は?」


 「どうもこうも……」


 「どのお方も捨てがたく、選べないのね? わかるわよ。でも私ならパパラッチ公爵かしら?」


 「…………」

 (お母様? 頭大丈夫? あんなのがいいの?)


 「今日中にゆっくり考えなさい。興奮し過ぎたからってソロ活動だけはやめなさいね」


 「わかりました。お言葉に甘えてゆっくり、じっくり、たっぷり考えます」


 お母様の好みを、最高の軽蔑の眼差しで一蹴した私は、夕食のソーセージのみを残すと言う地味な嫌がらせをして対応。


 (全然選べないよ……選べる訳ないじゃんか)


 暗黒の雲が夜空を覆い、星の欠片も見えないバルコニーの椅子。

 私はルービックキューブをガチャガチャといじりながら途方に暮れていました。


 (金の亡者と、大スベリクイズ野郎と、セクハラキモ男だよ?)


 (絶望だよ……今夜は眠れないよ……でも、私は皇太女。仕方ないよね。庶民街で暮らして、普通の恋愛をして普通の家族を……今日は最後だからしっかりと考えよう。国の為だもんね。私には次期女王として国を守る義務があるからね)


 数分後、当然の如く結論には至らず、いつもよりも深い眠りの大爆睡をこいた私は翌日朝、庭の鳥小屋でコケコッコーと叫ぶ、強制覚醒の大爆音で爽やか大の字寝姿で目覚めました。


 ガチャ


 「決めたのかしら? アルシンド」


 「おはようございます。お母様」

 (ノックすらもなし……)


 「決めたのなら、早速連絡して国民に発表するわよ」


 「それなんですが……」

 (やっぱりちゃんと話さなきゃ)


 「なあに?」


 「3名ともにちょっと個性的な方で私には合わない気がするんです」


 「合わないですって? 大きさ? 形? 色?」


 「いや、そっちのフィット感の方じゃなくて、性格と言うか、なんて言うか……」


 「詳しく話しなさい」


 私の『真剣な眼差し』と言う99%の演技に、お母様は冷静に私を見つめ返して来ました。


 そして、三人とのやりとりを若干盛り気味に話しました。


 (これは効果的面だ!)


 「そうだったのね。でも、大は小を兼ねるって言うじゃない?」


 「…………」

 (駄目か……)


 「今回貴方に見せた姿は、ほんの一部。隠された残りの部分に良い所がいっぱいあるかもしれないじゃない? だから、表面的な情報しか見るのは駄目よ」


 「……はい」

 (あんな薄っぺらいプロフィールを見て、言葉責めセクハラ野郎がいいんじゃない? とか言ってたのは誰ですか?)


 「私は性格、家柄、竿、袋の総合的な観点から、パパラッチ公爵をおすすめしたのよ」


 「…………」

 (おい! ふざけんじゃねーよ!)


 「だから、パパラッチ公爵にしなさい。ね。アルシンド」


 お母様は優しく頭を撫でてくれました。


 「わ、わかりました。お母様の仰る通りにします」


 母娘の思いやりと言う謎の効果音が流れ、私は雰囲気に飲まれてしまい決断の返答をしました。


 無論、一ヶ月後のスピード離婚をするとは、この時は知る由もありませんでした。


 そして更に一ヶ月後。

 

 あの時から、ずっと私を見ていてくれた夫が隣にいます。


 ホワイトシチューで夕食を済ました後、夜空の星々を見ながら、庭の散歩をしています。


 「アルシンド。ちょっと聞いていいか?」


 「なに? くだらない質問はやめてよ?」


 「いや、極めて重要だ。人によって長さが違う、更にブラブラするモノはなんだと思う?」


 「竿でしょ? いい加減にくだらない下ネタクイズやめない?」


 「ブッブー。答えは散歩だ」


 「…………」


 「君とこうして、散歩をしながらこのクイズが出来る。なんて幸せなんだ。愛してるよ、アルシンド」


 「ハイハイ。ありがとね」


 こうして私の選択は終わりました。

 一日二十問ふざけたクイズを出してくる夫でした。


 (ま、いっか。愛されてるのが一番って言うからね!)


 一応私は幸せです。


 『完』


 

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ある異世界皇太女が婚約者を決めるまでの物語 @pusuga

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