第19話 写真ーキオクー
嘉賀家に訪れた二人の警察官。
初老の男性は平久一矢、若い男性は陽川大耀と改めて名乗る。
二人とも所属は警視庁捜査一課だが、遭難事件の管轄であったか甚だ疑問である。
家に通した紘真は、リビングで改めて対面した。
「粗茶ですが」
突然の来客だろうと、お茶を出すのを忘れない。
緑茶を煎れるのには慣れている。なにしろ毎朝、しっかりと祖父の仏壇に供えているからだ。
「それで、今日はどのようなご用件で?」
改めるように紘真は対面する形で椅子に座る。
警察とのやりとりは良いも悪いも慣れている。
二人の警察は、落ち着きある紘真の様子に顔を見合わせれば、平久の目線から促される形で陽川が話を切りだしていた。
「こちらの方々を覚えていらっしゃるでしょうか?」
テーブルの上に差し出したのは一枚の写真。
とある山小屋にて、出会った記念にと撮った集合写真だ。
老若男女、八人の人間が写っていた。
老婆は山小屋の主。男女二人組は学者カップル。残る四人は大学の登山サークルだ。
だから紘真は、切り出し方が妙だと眉根を潜めてしまう。
「実は、ですね。驚かずに聞いて欲しいのです」
陽川は丁重な口調で言葉を選びながら説明に入る。
目と肩に力が入ったことで若干震えており、度々、隣の老人から小声で、おちつけとたしなめられている。
「こちらに写っている男性、遠山和貴さんですが、先日、自宅マンションにて殺害された姿で発見されました」
「えっ……?」
一瞬だけ紘真は言葉を失った。
一期一会の出会いとはいえ、あれこれアウトドア、それもキャンプ飯について語るのは楽しかったと記憶に新しい。
「ど、どういうことですか?」
「一週間前に殺害されているんです」
それだけではないと、陽川は口ごもることなく、ゆっくりとした口調で紘真に伝えてくる。
「同じサークルメンバーである
疑っているのかと紘真の目尻に自然と嫌悪がこもる。
だが、冷静になれと中の自分が落ち着かせる。
山小屋で一泊した仲だが、SNSのアカウントも交流の一環で交換はしている。
この一週間は、事前告知の小テストがあったりと忙しかったことも含めてNSに触れる時間はあまりとれなかった。
相手も学者や大学生と自分たちの時間があるのも理由が大きい。
「この男に見覚えはないでしょうか?」
平久に肘でつつかれながら陽川は、もう一枚、取り出したのは顔写真。正面から写したであろう男の写真。短髪に、世の理不尽さと不条理さを恨むような目つき、無精ひげが特徴だった。紘真は刺激された記憶により声に出していた。
「この人、山小屋に駆け込んできた一人だ!」
不躾な大人だったと鮮明に覚えている。
時刻的に、夕方、土砂降りとなった時、女を連れて駆け込んできた。
特に山小屋の主である老婆は、せっかくきれいにさせた部屋を汚され壊されとご立腹だ。
「ご存じで?」
「ええ、かなり、ふてぶてしかったですし、濡れているからタオル渡してもいらないとか突っぱねては怒鳴りつけてきたんですよ。家主の了承もなくズカズカと勝手に入り込んで、そのまま部屋に居座りました」
紘真は今思い出しても、不快感しかなかった。
興奮しているため下手に刺激するのは危険だと学者の案により、不干渉とした。
乗り込み、勝手に居座った男女。一応の良心から食事を持ってこようと、男の怒声で拒絶、一歩も外に出てこなかったのが幸をそうしていた。
「この男の名前は、
「はぁ!」
思わず紘真は驚愕を声に出してしまった。
時時系列的に考えれば、あの男女は強盗直後に山小屋を訪れた、いや逃げ込んできたことになる。
「よろしければ、当時の出来事をお話ししてもらえないでしょうか?」
紘真はてっきり遭難者の事後報告かと思っていた。
実際は、殺人と強盗、二つの事件に関していた。
ならば警視庁捜査一課が出てくるのに合点が行く。
あくまで五島は被疑者だろうと、尾行しているならば犯人の可能性は高い。
こうして紘真に聞き取りを行うのは、当時の状況から五島の情報を得ようとしているのだろう。
「わかりました。ですけど先にも言ったとおり、玄関先で少し接しただけですから、あまり当てにならないと思いますが」
人となりも知らなければ、名前すら警察に伝えられるまで紘真は知らなかった。
自身の持つ記憶が当てになると思えないが、当時の出来事を語れるだけ語り出した。
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