第2話:日常
私と隣の律季の机を引っ付けて、そこに和葉が椅子を持ってくる。和葉は今日のお弁当の中身を楽しみにしていて、また律季も同じような様子だ。お弁当の蓋を開けて、ご飯の上のふりかけが好きなものだと喜ぶ和葉が、ふとこちらのお弁当を覗いて言った。
「琴凛のお弁当って、いつも栄養バランス完璧で、でも美味しそうだよね~。お母さんとか見たこと無いけど、それお母さんが作ってるの?それとも琴凛が?」
自分の苦手なゴボウを見てまじかー、と呟いていた律季も、こちらのお弁当の中を覗いて不思議そうにしている。琴凛の弁当ん中に入ってる野菜なら、食べれそうなんだけどなぁ。と、ため息をついていた。
「これを作ったのは私。お母さんは料理をしないし、常に外出していて家事をしないから、家での家事は基本的に私がしているの。」
私の説明に、2人揃って情けない声を出していた。しかしこの間、家庭科で家の手伝いをするようにという課題について、家事など全くしたことがないと愚痴っていた2人ならまぁその情けなさも納得できる。
しかしAIなどの技術が進歩しているので、今や具材を入れれば勝手に調理する鍋なんてものも普通にある。むしろ普通に作るよりそちらの方が美味しいので、多分2人の家もそういった最新の機器を使っているのだと思うが、それでも手伝いが面倒だと言う2人はよっぽどだと私は思う。
ちなみに我が家は放蕩者の母親のせいでお金が無いので、あまり家事を手助けしてくれる機械が揃っていない。なので未だに一昔前の家事を行っている。
「そいえば、琴凛んちって片親だったか…。そりゃお母さんも働き詰めだよな。」
真ん中辺りで斜め切りされたウィンナーを箸でつまみ上げながら、考えが及ばなかったと言わんばかりにしょんぼりとして呟く律季。気を遣ってくれているのだろうが勘違いしないで欲しい、母は男をとっかえひっかえしているだけであって働いていない。
「違うよ、律季。私のお母さんは働いてない。再婚相手を見つけるのに必死なだけ。」
私の返答にどう返していいか迷う律季は、一瞬考えた末に「お、おう…そっか…。」と微妙な返事をして、様々な言いたかったであろう言葉をウィンナーと共に咀嚼して呑み込む。そんな律季を気にも止めない和葉は「じゃあ収入源はどうしてるの?」と聞いてきた。
「収入源は、今のところは株。私がやっているの。案外真面目にやれば稼げるのよ?」
株というのが意外だったんだろう、和葉はさらに色々聞いてくる。
「えっそれって最低でもいくら稼げるの?株主優待とかってどんなのがあるの?今の収入ってどんな感じ?」
「内緒。株主優待は、持ってる会社によるよ。」
私のすげない返事に、和葉は不服そうな声をあげた。そんな彼女を他所に私は鮭の切り身を口に運ぶ。うん、今日の鮭はいい焼き加減と塩加減かな。
鮭についてそんなことを考えていると、拗ねていた和葉がふっふっふ、と笑い出した。
「そんな答えてくれない琴凛には……こうだっ!」
そう言ったと同時に和葉の箸は私のだし巻き玉子をさらっていった。そのまま大きく口を開けて一口食べ、目を輝かせている。別に私のおかずを食べるのはいいけれど、私のおかずが無くなってしまう……。
そんな私の懸念を感じ取ったのか知らないが、和葉は一口食べたそのだし巻き玉子を呑み込んでから、
「あっ私のコレ、あげるね!それと滅茶苦茶美味しいじゃんこのだし巻き玉子、料亭か?」
と、よく分からない感想と共に、筑前煮のしいたけをくれた。多分彼女はしいたけが苦手なんだろうなぁ。そう思いながらも、ありがとう、いただきます。と彼女に一声かけてからしいたけを口に含む。味がしみていて、とても美味しい。このしいたけ美味しいね。と彼女に声をかけると、えーっ!嘘でしょ、私嫌いなんだけど!と返ってきた。
「お前だし巻き玉子貰っときながら自分の苦手なもんを人にあげたのかよ!」
と律季がツッコミを入れる。まぁ私は良いんだけどね。苦手な食べ物が無いから。
「そういう律季だって、ついさっきからごぼう残してるじゃない、全然お箸進んでないの見てるんだからね!」
勝ち誇ったように言い放つ和葉にと、悔しそうに歯噛みする律季。私としてはどっちもどっちだと言いたいところである。
「だし巻き玉子、もう一個残ってるしごぼうと交換する?」
律季が可哀想だったのでそう提案すると、律季は一瞬嬉しそうにしたが「いや、いいよ」と言った。えっ、という顔をする和葉。
「何故?」
「いや……だってさ。折角そんな美味しそうなだし巻き玉子を貰うのに、その代わりがごぼうだったら申し訳ねぇから…。」
これが苦手な物同士の交換ならまだ良かったんだけどよ…。と若干気まずそうに語尾を濁す律季。和葉は律季のそのマトモな考えに、「あの律季が……!?」と、酷く驚いていた。
「別に気にしなくても良いのに。……あ、それなら」
これと交換する?と言って、コーンとほうれん草のバター炒めを指す。これは今日のおかずの中で律季が2番目くらいに苦手なものだ。律季も私の意図を若干察したらしく、
「えっでもそれは…。」
と渋っている。なので、私は「いいからいいから。」と強引に決めてしまった。小さい器に入れられたそれを律季から貰って食べていると、一足先に昼食を食べ終わっていた和葉は私を見て、
「やっぱり琴凛って優しいけど…それだけじゃなくて、なんだか達観してるような感じもするなぁ。」
精神年齢が何十歳も私達より上な感じ?という良く分からない感想をこぼしていた。
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