何でも屋は怪異退治をする~言霊怪異解決譚~
エム
プロローグ
第1話:学校
キーンコーンカーンコーン、というチャイムの音に、生徒が一斉に授業を受ける気で無くなったのを見た中年の数学教師は、ふぅっとため息を吐いて授業を終わらせにかかる。
「んじゃあ、次の授業までに教科書のここの問題、必ずやっとけよ~。んじゃ、号令宜しく。」
「きりーつ、気を付け────」
昼休み。皆パソコンで、この間の期末試験の成績を見ている。私──
「うわっ、悪かった~!どーしよ…くるみぃ、あたしママに怒られちゃう~…」
「っしゃ!成績良かったから今日の放課後は遊べるぜ、お前は?」
親友らしき人に泣きつく女子生徒や、騒ぐ男子生徒達の姿がパソコンの縁の向こうに見える。賑やかな教室の一角で、私はロードを終えたパソコンの画面に集中してから、ざっと目を通した。数多ある教科、その総合点数の下にある順位。あるのは1の数字。
(まぁ、点数は前回より少し下がってしまったけれど、こんなものでしょう。剣道にかなり打ち込めたし、多少下がってもトップをキープ出来たなら上々ね。)
どうせ今回もこの結果に己の母は興味を示さないのだろうな、と思った。離婚してからすっかり堕落してしまった母は、今頃私の見知らぬ男とデートでもしているんだろう。
良く言えば放任主義、悪く言えばただの放蕩者である母の事を思いだし、憂鬱になっていると、2つの人影が私の視界を暗くする。
「ねね、琴凛ー!どだった?……うわっ今回もやっぱり1位なんだね、流石は『パーフェクトガール』!」
「いいなぁ、俺なんて学年200人中189位だぜ?その頭の良さを分けて欲しいくらいだよ…。」
私のパソコンを勝手に覗いておきながら失礼な感想を言ってきたのは、私のクラスメートである女子生徒の、
「律季は『今回も』ロクに勉強してないだけでしょう?」
「うぐっ」
和葉のキツい言葉に呻く律季。聞けば、前日の夜、日付が変わるまでゲームをやっていたらしい。それではこの散々たる結果もしかたないだろう。逆に和葉は57位と、まぁ良いと言っても過言でない結果だ。和葉のコツコツと勉強を積み重ねる性格が功を奏している。
……と、マウスを好きに動かして結果を詳しく見ていた和葉がこちらを向いて
「ところで……。琴凛にしては珍しく点数が低めだけど、どうしたの?体調不良?」
と尋ねてきた。律季も「ほんとだ、」と画面を覗いている。
「体調不良などではなくて…。剣道の大会に打ち込みたかったから、勉強量を少し減らしたの。それでも1位がとれて良かったかな。」
そう返すと、和葉と律季は納得したようだった。
「そっか、そいえばこの間大きな大会があるって言ってたよね。それのこと?」
結果はどだったのよ?イケメンいた?と矢継ぎ早に質問をしてくる和葉を止めてから、1つずつ質問の答えを返していく。
「大会ではちゃんと優勝できたよ。それから、和葉のお眼鏡にかなうようなイケメンはいなかったと思うけれど…。」
そもそも女子学生の大会だし、と言葉を付け足すと、ちぇーっ、と頬を膨らませる和葉。そもそも、彼女のイケメンの定義とは何なのだろうか。気になったが、どうせ高い理想しか返ってこない事は明白なので聞くのはやめにした。
和葉が手放したマウスを今度は律季が持つ。律季がある科目に注目して、スクロールする手を止めた。
「おっ、琴凛は今回も『言霊』の実技が満点なんだな。」
わぁ、と目を輝かせる和葉。
言霊というのは、言葉に宿る特別な力である。その力というのは、発せられる言葉によって変わるのだ。私達は皆、その言霊を使うことが出来る。しかし、普段から使っている言葉に力が宿ってしまっては大変なので子供の頃から使い方を学ぶ事になっている。
律季がスクロールを止めた画面を覗く和葉は、画面のある一点を見て、そこに指を添えた。
「あ、その横の感制もバッチリ満点だ!凄いね、2番目に出てきた共通のシュミレーション問題、我慢とかするのすっごく大変だったのに~。」
和葉の言う『感制』は、感情制御を略した科目。生徒は試験専用の特別なVRの世界に入り、そこでAIがその人に合わせて、試験問題となる状況を作り出す。如何なる状況下であろうと、感情に呑まれる事無く冷静でいられるのか、またその冷静さがどれ程かを計測する実技だ。激情に身を任せ言霊で人を傷付けぬ様に、感情をコントロールする事を目的としている。ちなみに、問題数としては全員共通の問題が2問、個人に合わせて作られる問題が3問である。
「まぁでも琴凛が怒ったりする姿って見たこと無いしな。そんなに笑うこともねぇし。」
と、律季。実際律季の言う通りで、私は皆の様に声を出して笑うことも無ければ、誰かに対して怒ることもない。周囲と比較すれば、常に穏やかな人間だと私も思う。
「そうだよねぇ、たしかに私も琴凛の激しい姿見たこと無いかも。剣道の試合を見せて貰ったときさえも穏やかで涼やかな顔してるし。」
和葉も律季に賛同して言う。私も自分自身を客観的に見て、そう思う節はある。どんな強敵を相手取る時でも私は冷静を心掛けているので、試合でミスが起こったことはただの1度もない。
「まぁ、それが私の取り柄だから。」
そう言って私はパソコンの画面をパタリと閉じた。あーっ、と2人の残念がる声を無視して、パソコンを膝の上に乗せていたカバーにしまい、机の中に入れる。もっと見たかったと文句を言う2人に、昼御飯を食べようと声をかけて、お弁当を取り出そうとロッカーの鍵を持ち席を立った。
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